村の自転車修理工・タビュラン。その名人っぷりから、この村では、自転車のことをタビュランと呼ぶほど。でもなんと彼は自転車に乗れない。家族にもずっと秘密にしてきたのだが、ついにバレそうになって…
邦題批判じゃないのですが、全然「小さな」秘密じゃなかったです(笑)
人生がひっくり返る、そして、終わるかもしれないぐらいの危機に陥った男のお話でした。
フランスのんびりとした美しい田舎が舞台。みんな小さな頃から着ている服のデザインがずっと同じだったり、街並みがほとんど変わらなかったり、自転車が自走して人の後ろからトコトコ付いてきたりと、ファンタジックなコメディテイストで進んでいくので、なんだか、とても優しい気持ちになれる。時代設定もいつなのかよくわからなくなっていて、それがうまく空気を和らげる。
でも、ツール・ド・フランスがあれぐらい盛り上がることを考えても、きっと、フランス人にとって自転車は日本人が思っているより何か特別なもので、それに乗れないということは、人格否定に近いんじゃないだろうか。生まれてきて母の手の次に握るのがハンドル、というような話もあったし、自分の名前が自転車そのものを指す、なんて相当なプレッシャーに違いない。
さすが「アメリ」の脚本家が関わっているだけあって、一筋縄ではいかない作品だと思った。一見柔らかい表情を見せながら、実は、個人の尊厳とか、人生の総決算とか、結構、シリアスな問いを投げかけてくる。きっと、観客の誰もが「自転車に乗れない」を自分自身の「人には言えない秘密」に置き換えて考えることができるようになっているのだ。佳作。
尺も90分とほど良い。本筋とは関係ないが、90分ぐらいで豊かな気持ちになれる映画って、本当に秀作だと思う。90分映画特集とかどこかでやってくれないかな 笑