【ブラザーとブラジャーの相似性について】
…憧れていた頃もある…
…邪魔くさいと思った時もある…
…やがて大人になり…
…あえば心地よくて…
…あわなければ胸が痛む…
…意識すると何だか気恥ずかしくもなる…
…とりわけ本作…
…その人は
見られたくないものを
隠そうとして
そいつを頼った…
…そいつは
その人の大切なものを
包んで守ろうとした…
…ほら…
…このブラザー…
…もう最高のブラジャーじゃないか。
✤✤✤
兄弟のかたちは千差万別である。
だが、どんなかたちであっても、それが特別な存在であることに変わりはない。
最も近しい間柄のはずなのに、その実、本当の中身はよく分からないという奇妙な存在。
それが兄弟だ。
本作は、そんな兄弟の”ひとつのかたち”を、非常に繊細且つ丁寧に描いた秀作ショートフィルムである。
その兄弟の有り様は、世の兄弟持ち男性ならば、大なり小なり感じるものがあるに違いない。
少なくとも、私は胸の奥深くまでぶっ刺さって震えた。
以前『万引き家族』のレビューでも触れたが、私には幼少の頃から仲の良い、二つ歳下の弟がいる。
私は、社会人になって家を出るまで、ずっと弟と同部屋で生活をしていたため、弟のことなら何でも知り尽くしていると確信していた。
やがて、中学・高校に進学し思春期を迎えると、流石に兄弟同部屋では困ってしまう状況が生じる。
そう…いわゆる下半身の”みこすり半行為”のことである。
仲の良い我々は、兄弟仲が気まずくならぬよう、ある方法を思い付いた。
それこそが、我が家で、ベルリンの壁崩壊と同等の歴史的快挙と言われている『エロ本協定の調印』だ。
【エロ本協定 条文】
1)兄のエロ本は弟も読んで良い。
2)弟のエロ本は兄も読んで良い。
3)みこすり半行為を行う曜日・時間は
予め定め、相手のみこすり半タイムには
何があっても絶対に部屋に入っては
ならない。
どうだ、仲が良い我々兄弟ならではの実に画期的な方策であろう。
私も弟も満面の笑みで(下心全開で)サインしたのだった。
そうして調印翌日の夕飯後…私のターン。
私は押し入れにしまってあった弟のマジソンバッグを引っ張り出し、中から弟の秘蔵書を取り出した。
どれどれ…
『Beppin』 •́ω•̀)?
『GORO』 •́ω•̀)?
…表紙には、セーラー服姿の可愛らしいアイドルがニッコリ微笑んでいた。
あ、あいつ…こんなアイドルの制服姿なんかでぶっコ〇るのか！？
((((；ﾟДﾟ))))
私は衝撃を受けた…奴はどれだけ想像力いや妄想力が豊かなんだ？
このエロボウズめ！
それは私が弟の知られざる一面を垣間見た最初の瞬間に他ならない。
そして翌日…弟のターン。
取り決めた終了時刻になるまでひとっ風呂浴びていた私が、髪を乾かして部屋に戻ると、真っ赤な顔で凄まじく動揺した中二の弟が待っていた。
彼は部屋に入ってきた私にボソリとこう言った。
「兄ちゃん…こんなの…俺ムリ。」
畳の上には、高一の私の秘蔵書である人妻官能劇画雑誌界のツートップこと『漫画ローレンス』と『漫画エロトピア』が並べられていた。
表紙には、ベージュのブラジャーを纏った有名女優似の熟女が、悩殺ポーズでこちらを睥睨しているカラーイラスト…実に妖艶である。
みこすり半のネタと言えば、これしかないではないか！
しかし何故か弟には相当ショックだったらしく、それから暫くの間は、私のことを、全長178cmのゴキブリでも見るかのような何とも言えない神妙な目付きでチラチラ見てきた。
あれほど仲の良かった兄弟の内面…隠れた性癖を暴露し合うという何とも皮肉な結果をもたらしながらも、期せずして兄弟という存在の神秘を再確認させることにもなった『エロ本協定の調印』。
だが、その後、条文1)2)が有効活用されることは一度もなかった。
✤✤✤
最も近しい存在でありながら、本当の中身はよく分からないという実に奇妙な存在。
だが、よく分からずとも、無意識に愛情を傾けてしまう存在。
それこそが兄弟だ。
本作では、そんな兄弟の、近くて遠い微妙な距離感と、それでも互いを思いやる不器用な愛情表現が、実に見事に描かれている。
また、そうした複雑で繊細な兄弟の心理描写も、物語の前半と後半、兄のターン・弟のターンと分けて構成されており、非常に分かり易く観ることができた。
わずか45分の短編作品に、ここまで心を揺さぶられるとは。
特に…主演の藤原季節の演技は…もはや神である。
兄弟ものの作品…そうしたカテゴライズを意識したことはないが、他にも観てみたくなってしまった。
もしオススメの兄弟もの作品があれば、是非ともコメント頂きたい。
全兄弟持ち男性必見の本作『中村屋酒店の兄弟』。
未見の方は、是非御鑑賞あれ。
現在、U-NEXTにて見放題配信中。
追伸)
前にも書いたが、現在私の弟は脱サラして浄土真宗の僧侶…文字通り、真のエロ坊主である。
仏の住まう”仏国”を求め”ぶっコク”とはこれ如何に。
