なすび

オリバー・ツイストのなすびのレビュー・感想・評価

オリバー・ツイスト(2005年製作の映画)
1.0
ポランスキー、原作読んでないんじゃね…?出演者も全員読んでないんじゃね…?少なくともデヴィッドリーン版の方では、監督も出演者も全員がきっとディケンズの原作を読んだことがありそれぞれに解釈し役を楽しんで演じていた感じがあった。しかしこちらは(ただ単に私の解釈と違うだけなのかもしれないが)原作のイメージとかけ離れた人物造形が多くてがっかりしてしまった。小耳にはさんだ情報によると『戦場のピアニスト』撮って次どうしよう〜って悩んでたときに奥さんから勧められたそう、絶対思い入れとかないやん…

原作というよりデヴィッドリーン版を基にしてそう。そしてそこからもお話をごそっと改変してる。なんだかディケンズの小説のあのおどろおどろしい雰囲気とか、悲しみや恐怖や暴力を、それ自体はそのまま描かれるのに語り手の巧みな手腕でどこか滑稽なユーモアと化すようなところが全然表せてないのがつまんなかった。音楽がまじで合ってないしうるさい。当時のロンドンの街並みを再現したセットも金かかっていることは十分に伝わってくるが、もっと汚くて狭苦しい感じでよかったと思う。

ポランスキー的ポイントはたぶんフェイギンをかなり善人ぽく描いたところだと思う。もちろんそれはフェイギンがユダヤ人だからだ。デヴィッドリーン版では原作に忠実にフェイギンは悪魔的な、怪物みたいな見た目で狡猾さや血も涙もない性格として描かれていた。けどポランスキーの方はフェイギンが全然悪役として活躍しない!なんかチョコマカ部屋の中を動き回ってニヒニヒ笑ってるだけだし子どもと戯れるだけだし、最後にはオリバーとお涙頂戴なハグもする!これは完全にポランスキーのユダヤ人びいきと思われる、彼らしい解釈なのか。まぁでも実際原作でもフェイギンは極悪で狡猾なジジイとして描かれる一方、死の間際牢屋の中で人間らしさを取り戻すシーンがある。こういうところにディケンズの善人/悪人と決めつけない偉大な目線があるなぁというのはあって、フェイギンはけっこう魅力的なキャラに仕上がっているのでフェイギン推しする人もいて当然なのかも。(でも悪役として活躍するところにもフェイギンの魅力があるし、あれがあってこその最後の死の前の一瞬の人間としての足掻きがなんとも虚しく映るので、やっぱりポランスキー物足りないぜ…)
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