ととさん

アメリカン・ファクトリーのととさんのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・ファクトリー(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

変な脚色がないドキュメンタリーの方が下手な脚本の映像作品よりずっと面白いと言う好例。

アメリカ三大自動車メーカーの一つGMのかつての城下町は、父母の世代は組合に守られ、安定した給与と充実した福利厚生を得ていた。GM工場が閉鎖され中国企業の工場に変わるが、子や孫世代は親世代よりずっと過酷な環境で働かされ、組合加入も違法スレスレ手段で阻止されている。

中国企業が米国に来たせいで起きた米国労働者の悲劇かと思ったが、よく見ると「古き良き米国製造業の幻想を追うことの虚しさ」と言う気もしてくる。
親世代の「古き良きアメリカ」を見て育った現在中高年世代の不満は大きく、中国企業の解雇ターゲットにされる。
同じ米国人でも孫世代は「とりあえず文句言わずに目の前の職にしがみ付く」ため、中国企業が忌み嫌う組合加入を忖度して避ける。

GMの労働者権利が強過ぎて生産性と品質が日本車に完敗したという成り行きに気づかないまま親世代の幻想を求め現実を見ない中高年世代が一番悲惨だが、自分も日本でバブルとさとり世代に挟まれた氷河期世代なので、ちょっと共感出来た。

一生懸命中国人の若い上司に馴染み学ぼうとした米国人中年男性社員が「PC入力が遅い」と解雇されたのは気の毒だった。
日本もどんどん貧しくなってきているので、彼の喪失感が他人事とは思えない。