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少年の君のxyuchanxのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.4
あらためまして、明けましておめでとうございます。最近レビューもコメントも最低限モードになってしまってますが、相変わらずお付き合い頂けてる皆様には感謝感激雨あられでございます。

本年もどうか、よろしくお願いいたします。

さて本年1本目は、ずっと観たいと思いつつ重いテーマなので後回しになっていたこちら。いじめものは苦手なんですよね・・・しかし。

傑作でした。

2019年中国と香港の合作。オンライン小説の映画化で「パラサイト」と同時にアカデミー国際長編映画賞ノミネート。監督は「インファナル・アフェア」で知られる俳優・監督・プロデュサーのエリック・ツァンの息子デレク・ツァン監督。

序盤の衝撃シーンにはじまり、社会問題をテーマにしつつ、中盤には青春ラブストーリー、後半はサスペンスに変化していく、ジャンルミックス。構図、編集、演技、音効、そして特に、セリフ以外で大事な事を語らせるベテラン監督かのような演出。日本の漫画やアニメからの影響を感じたりも。

中国は昔から科挙の国とはいえ、いまは”みな平等”を目指す共産主義なはずなのに受験戦争と学歴社会が当たり前に。さらには受験生923万人という規模。例にもれず進学校に行けるのは金持ちの子だけ。そこで繰り広げられる凄惨な虐め、金持ちのキレイな子が徒党を組んで貧乏人をいじめる構図もありがち。そして多くの場合、中途半端な正義感は仇になる。

過当な受験戦争、貧富の差による機会不平等、大量のいじめと自殺、ストリートチルドレンの存在、中国政府が隠したいはずの幾つもの社会問題が描かれている。この作品が何度も公開断念の憂き目に逢いそうになったというのも頷ける。



ーー 以下、ネタバレ注意 ーー



北京大学に進学することで貧乏から抜け出そうと努力するも、ある事件からいじめの標的になってしまった主人公チェン・ニェン。

たまたま出会ったストリートチルドレンのチンピラ、シャオベイ。唐突な接触シーンの出会いではあったが、二人は徐々にお互いを支えあう存在になっていく。

”ただ歩いてろ、俺は後ろにいる”

中国で「13億人の妹」の愛称をもつチェン役のチョウ・ドンユイは撮影時なんと27歳。たまに美人にも見えるが幸薄な感じ。

シャオベイ役のジャクソン・イーはアイドル出身らしいが、菅田将暉っぽい魅力と演技力が素晴らしく、2人とも絶妙なキャスティング。ある意味よくあるストーリーをonly oneに変えた大きな勝因。

”いい大学でれば這い上がれる”と、極貧なのに学費を作るため詐欺をはたらく親。借金取りから逃れるため逃げておりチェンはネグレクトされている。母との電話で”夜明けは目前よ”と語る娘の気丈さよ。捨てられて底辺で傷つきながら生きてきたシャオベイにオスカー・ワイルドの詩はどう響いたのか。

“オレ達はみんなドブの中にいる。
でもそこから星を眺めている奴らだっているんだ。
We are all in the gutter, but some of us are looking at the stars.”

”一緒にここを出ない?”、”どうやって?”

ホットロードに影響を受けたのではと言われるバイクのシーンのすがすがしさ。

”おまえは世界を守れ、俺はおまえを守る”

一度は警察に頼るものの、警察ができる処分は中途半端、いじめをエスカレートさせる結果につながり、シャオベイもいつも付いてられるわけでもなく・・・。

敵役の子もバッチリなキャスティングで、”このガキだきゃぁ・・・”とも思わされるが・・・根源は親への恐怖として描かれている。ただ作品全体を通じて、親、学校、警察、政府の責任/罪に関しては”やんわりと、役に立たないという描き方”に抑えられていたのが印象的。

ちなみに、エンドロールにあった通り(効果はともかく)中国では2019年にいじめ対策の法律ができたらしいが、日本では警察が虐待やいじめに介入できる法律は無い。欧米では当たり前だけどね。

”俺には何もないが、好きな子がいる。その子に幸せになって欲しい。”

”大人になったらまた会える”・・・?

切なすぎる展開でこのまま終わるのか・・・と思いきや、役立たずだった刑事が解決策を勧めてくる。映画としてはソフトランディングではあったが、少しだけ救われた結末。

いやー、絶品でした。ここまでとは。少なくとも僕がアカデミー審査員ならこっちを選んでたな🤔

ただ、選ばれなかった理由と思われる違和感ポイントも。

・刑事がイケメン&美女すぎ…リアリティ無し
・未来を見せる導入部、伏線でもあるがネタバレでもあり
・東野圭吾の小説に似過ぎとの説は…そうでもなくない?
・あんだけ監視カメラあって有効な証拠ないの?
・もともと被害者とはいえ殺人犯が教師に採用される?
・実話風エンドロールだが小説が元でしょ?あざとい
・最後のシーン、なぜ後ろを歩く?いまも護る、なら他の演出あるだろ
・最後の政府プロモは…政府を納得させるための苦肉の策と言われてる


その辺差し引いても中国映画では過去イチに好みでした。

また、この監督が長編SF小説「三体」の実写ドラマ化を手がける可能性ありと。楽しみすぎる。
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