Cineman

少年の君のCinemanのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
5.0
『少年の君』
デレク・ツァン監督
2019年公開 中国・香港

鑑賞日 2023年8月4日

冒頭から緊迫感のある映像と編集。
その緊張感が途切れることなく最後まで続き、
あっという間に上映時間135分が過ぎています。
この完成度の高い作品がデレク・ツァン単独監督デビュー作というのだから驚きだ。

過酷な受験戦争の中で湧き上がる壮絶ないじめや、
壊れてしまった家族という暗くてシビアなテーマを
美しい純愛映画に創り上げた演出力が魅力です。
青春映画として中国映画歴代第一位、興行収入243億円の大ヒット作です。

【Story】
全国統一大学入試を60日後にひかえて殺伐とした教室。
先生はひたすら生徒たちに激励を与えるばかりだ。
休憩時間にざわめいている教室内でクラスメートと無駄話もせず一人静かに参考書に向かっている高校三年生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)。学内の成績がトップテンという優秀な生徒だ。

突然生徒たちがさわぎ始め窓際に集まり校庭を見下ろし始めた。
チェン・ニェンも何事かと校庭を見下ろし慌てて階段を駆け下りた。
校庭の真ん中で多くの生徒が取り囲んでいたのは校舎から飛び降りた少女の死体だった。

生徒たちは興味本位でスマホで写真を撮っている。
チェン・ニェンはゆっくり円陣の真ん中まで歩いてクラスメートの血だらけの死体にそっと自分の上着を被せる。

ある日、チェン・ニェンは、数人の不良からリンチを受けているチンピラのシャオベイ(イー・ヤンチェンシー)を目撃して身の危険も顧みずにかばった。

クラスメートの自殺の原因が“いじめ”だと警察に話したためにチェン・ニェンは主犯格の女子生徒から激しいいじめを受け始める。
暴力に耐えかねたチェン・ニェンはシャオベイにボディーガードを依頼する。
次の日からシャオベイは通学途中のチェン・ニェンを遠くから見守りながら一緒に歩き始めた。
ある日シャオベイが目を離しているすきにチェン・ニェンは大勢に囲まれて髪を切られ裸の動画まで撮られてしまった。
責任を感じたシャオベイはチェン・ニェンの無惨な髪型を剃って丸刈りにして自分の頭も剃り上げた。

母親に逃げられてスラムに1人孤独に暮らし危険なことに手を染めているシャオベイと、
学費と生活費を稼ぐために偽物のエステ商品を周囲に売りつけて訴えられている母親と2人で暮らすチェン・ニェン。
ともに心も体もずたずたに傷ついた青年と少女はいつしか心を通わせるようになる。

貧しい母子家庭に暮らすチェン・ニェンはこの街を出て北京の一流大学に進学して輝かしい将来を掴むことを夢見てじっと今をやり過ごしている。

全国統一大学入試が始める前日。
いじめの主犯ウェイが変死体で発見された。
警察はウェイにいじめられていたチェン・ニェンを容疑者として取り調べを始める。

この後の展開が素晴らしく感動的ですのでお楽しみに。
エンディングのクレジットが始まっても終わりではありません。
最後までご覧ください。

【Trivia & Topics】
*原作について。
原作はチオ・ユエシーのオンライン小説です。

*チョウ・ドンユイ
顔つきも体つきもとても子供っぽいチョウ・ドンユイ。
2010年のデビュー作『サンザシの樹の下で』では18歳の時に15歳を演じ、その可憐さから中国では「13億人の妹」と呼ばれました。
『少年の君』の撮影時27歳の彼女は15歳の中学3年生を演じてまったく違和感を感じさせません。
今春公開された本作の韓国版リメイクではこの役を同じく27歳のキム・ダミが演じているのが楽しみなんです。

*みんな坊主に。
13億人の妹と言われているスターのチョウ・ドンユイが丸刈りになったポスターは国内で衝撃を与えた。
ドンユイが撮影中に「やるならみんなもやりましょう」と冗談のつもりで言ったところスタッフがそろって丸刈りになった写真が中国内で販売されたパンフレットに掲載されている。

*受賞歴
中国圏でもっとも有名な映画賞で香港のアカデミー賞と言われている「香港電影金像奨」で作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、新人俳優賞、撮影賞、服装デザイン賞、歌曲賞の8部門を受賞。
その他各国の映画祭で50以上の映画賞を受賞し、第93回アカデミー賞の国際長編映画賞にもノミネートされた。

*デレク・ツァンからのメッセージ。
〜オープニング・クレジット〜
“いじめ”は世界的な現象であり、
我々の身近でも起こっている。
本作が抑止の一助となり、
苦しむ人々の希望になることを願う。

〜エンディング・クレジット〜
この事件はいじめに関する法整備のきっかけとなり、
学校内の安全を守る取り組みは今も続いている。
いじめは誰にとっても身近な問題です。
どこの国でも問題の最前線は“学校”ですが、
学校内だけの問題ではありません。

2016年教育部など9つの省庁が、
いじめ防止に向けた施策を発表。
防止策の他専門部署も設置されました。
更に2017年11月合計11の政府機関が、 
小中高生いじめ防止強化法案を公布。
2018年国務院の指導の下、
各地でいじめ防止条例が制定されました。

各家庭、社会、法律、皆が一丸となれば、
子供たちそして世界を守れるはずです。

【5 star rating】
☆☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
Cineman

Cineman