しちみ

少年の君のしちみのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.8
久々に最高に良いと思う作品と出会った。
これはみんな見てほしい。2時間強、ずっと胸がすり潰されて息をするのが苦しくなる映画ではあるけど、この映画が持っている強いメッセージ性を受け取ってほしい。

学歴社会の思考がいまだに根強く残る中国の進学校で1人の少女が学校で自殺をしたことから物語は始まり、ただひたすらに人間の真っ黒で擦っても擦っても落ちない汚れの部分を描いているようだった。
もう10年近く前の話になるけれど、私も半年近くイジメられていたことがある。だからこの作品を見始めて、ものの数分で胸がすり潰されて目の前が真っ暗になる感覚が訪れた。チェンは作品中に『お母さんが大人になったら忘れっぽくなると言っていた。受験が終わったら私も大人になる。どうせ忘れるんだから関係ない。』という場面があるが、これを聞いた私はずっと忘れられないよ、10年経ってもいまだに鮮明にやられたことを覚えているんだよと思った。もちろん、チェンも本気でそんなことを思ってるわけがない。ただ、生き地獄のような毎日を生きる彼女がその時に縋れるものは大人になって今のこの地獄を忘れることしかなかったんだなと思うとただただ苦しかった。

この作品で印象深かったのは救われるような場面がほとんどないこと。
進学校に通っている生徒だと聞けば一般的にはいわゆるエリートの扱いなんだろうが、大半は倫理観が終わってる。全員受験というものにストレスを抱えていて学費のことや親からのプレッシャーに耐えなければならず、困ったことや大変なことが起きても簡単に親に助けてと言えない環境下なのは簡単に見て取れる。そこに加えて、この学歴社会のレールから逸脱した人間が一度グレーな界隈に入ってしまうと簡単には抜け出せないことも同時進行で描いている。
極め付けは学校も先生も警察もマトモに機能してないこと。ただ、これに関しては現状の日本の方がより悲惨かもしれない。事実隠蔽、責任の押し付け合い、事なかれ主義、加害者側も子供だから未来があるだのなんだの言って被害者側の人権はフルシカトの極悪掃き溜め。私も経験したけど、この体制だから誰かに助けを求めてイジメを公にしたって必ずイジメてる側は報復しに来るんだよ。だってイジメてる側って正常じゃないからね、異常者だから。本作も例外なく何度も何度もチェンは報復される。

それでもチェンは学校に通って受験をして北京に行かなければならなかった。良い母親とは言えないかもしれないが、唯一無二の母親のために北京大学に合格して親子揃って北京に行きたかったから。そこで彼女はシャオベイにボディーガードを頼む。
お互いがお互いにとって未知の環境で生活している同士だったはずが、同じ時間を過ごすうちに気持ちの変化が訪れる。どれだけ過酷な環境にいても、人が誰かを思ったり愛情を感じたりするのは変わらないんだと思うとこの作品はより一層残酷で過酷な作品に思う。

チェンはシャオベイがボディーガードをしてくれるおかげで一定の落ち着いた日々を取り戻し、受験日に向けて黙々と勉強をするがある日の朝起きるとシャオベイの姿がなく連絡も付かない。そのまま学校へ向かうが帰る時にもシャオベイの姿はなく仕方なくチェンは1人で帰ろうとするが…ここで事件が起きてしまう。

この作品のメインテーマはイジメなのかもしれないが、見続けていくと途中から私的には究極の愛を表現しているようにしか思えず、さらにこの作品に脱帽した。
誰かを愛するってめちゃくちゃ痛いんだよなぁ。痛いんだけど、その痛みに耐えれるからこそ人はそれを愛と呼ぶのかもしれないね。時として人は誰かのためならば何をやっても良いという錯覚に陥ってしまうものだけど、その錯覚が冷めた時に過去に戻ってやり直したいとかあんなことしなきゃ良かったじゃなくてこれからのことを淡々と見つめている姿は愛以外の何で表現したら良いのかわからないくらいだった。

ずっと辛い作品だけど、個人的に1番辛かったのはチェンが取り調べされてる時だったかなぁ。『イジメられた私が悪いの?』こんなことを言わせてしまう世の中じゃダメだ。復讐が当たり前の世界じゃ子供は安心して産めないよ。
愛情や絆、繋がりって難しいよね。どんな時でも相手の顔を見たら笑顔になってしまって自然と涙が流れてしまう、チェンとシャオベイを演じた2人には大きな拍手を送りたい。

私ができる愛情といえば、一緒に髪の毛を刈り上げることくらいだろうか。

日本でも迅速にイジメ問題について法整備を進めてほしい。イジメじゃなくてそれらは全て犯罪だから。イジメられている子に罪はないし、イジメている側は正常じゃないから加害者側への心理的なアプローチも必ず必要だと感じる。
いないと願ってるけど、もしこのレビューを読んでくれた人の中で今イジメに悩んでる人がいたならば迷わずに逃げてと伝えたい。ただ、逃げる先はあの世じゃなくてこの世界の中で逃げてね。好きな本を読んで好きな映画を見て好きなところに行って好きなことをすればいいし、それが何もなくたって平和なところにただ穏やかに居るだけでも良いんだから。
しちみ

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