ロクシ

アウシュビッツの会計係のロクシのレビュー・感想・評価

アウシュビッツの会計係(2018年製作の映画)
5.0
これはホロコースト問題について興味のある人は絶対に見るべき!!
ホロコーストは前時代の歴史じゃない。まだ解決してないんです。

以前Netflixで見たBBC作 「アウシュビッツ ナチスとホロコースト」で貴重な看守側の生の証言を詳細に話していた、オスカーグレニング氏が、その証言がきっかけで起訴された件についてまとめたドキュメンタリー。(まだ見てない人は、先にBBCのアウシュビッツから見てください)
ホロコーストについて、今まで学校の授業で習った程度でしか知らなかった私は、今年BBCのアウシュビッツ〜を見てはじめて、ユダヤ人問題の最終的解決の全容(と言っていいのか)を知ることができた。
このドキュメンタリーで貴重な証言をしていたグレニング氏は、今では悪いことだったと言えるが、当時は国全体が反ユダヤ主義の思想に染まっていたので、疑問を持てなかったと言っていた気がする。(見返す気力がない)

そして、どうしてこんなおぞましい政策が先進国ドイツで行われたのか、自分は「サウルの息子」「顔のないヒトラー達」「シンドラーのリスト」「アイヒマンを追え」「ホロコースト」「ファニア歌いなさい」「ハンナアーレント」などなど、ホロコーストモノの映画を漁り、自分なりに色々想像してみた。

当時のドイツ政府はほとんどがナチス関係者だったこと。
ドイツ全体、ヨーロッパ全体がそういうムードだったこと。
反ユダヤ主義の思想の中で育った若者が、疑問を持たず命令通りに収容所の任務についていたこと。
むしろ独ソ戦の前線に派遣されるよりは、収容所は楽な職場だと思われていたこと。
他国ですらユダヤ人絶滅政策を傍観し、ユダヤ人移送に手を貸していたこと。
ドイツ敗戦が濃厚になると、最終的解決関係者は、組織的に海外へ逃亡したこと。
戦後も政治関係者のほとんどが元ナチだったので、ニュルンベルク裁判で裁かれたのはたった24名のナチス関係者だったこと。
60年代になってようやくアウシュビッツ裁判で関係者が裁かれ始めたこと。

そして、この裁きは2010年代になってもまだ終わっていないこと。

2015年になって今更SS隊員の責任を問うの?日本に原爆を落とした人は誰も裁かれていないのに?と正直ちょっと思ってしまった。
慰安婦や徴用工でいちゃもんつけてくる隣国に対して、日本人が今更?言いがかり、とうんざりしてるのも事実…。

かの有名なマッドサイエンティストのメンゲレに人体実験をされたユダヤ女性が、裁判中にグレニング氏を許しますと言い、世界からバッシングを受けたことが衝撃的だった。
彼女はナチスを許すことで自分の精神を保ってるんだと。
過去の過ちを許しあうことは大事だよな…とも思った。
でも犯した罪は何年経とうが絶対に消えないのも確か。
あの凄惨な殺人罪の関係者を、ちゃんと犯罪者だと正式に歴史的に判例に残すことが重要なのだと原告側は語っていた。
確かにそうだ。そういう時代だったから仕方ないよねでは、また「そういう時代」が来てしまったら罪が罪で無くなってしまう。
今でもナチスを追い続ける人たちの執念を感じた。

蒸し返しても仕方のないことと、罪を認めること。
どっちが正しいんだろう?本当に難しいなと思った。

ナチスの罪はドイツ人自らによって裁かれているが、ドイツだってドレスデンの無差別空爆で民間人が虐殺されているし、ベルリン陥落後も多くのドイツ女性がレイプされた。日本だって広島長崎の原爆や、シベリア抑留の問題もある。

許すべき?許さないべき?
直接被害を被ってない自分がどうこう言える立場ではないが、少なくとも被害者本人は、戦時中の罪を許さない権利があると思うし、犯罪だと歴史に残すことは意味があるんだと思う。

関係ないけど途中で出てきたイヴァン雷帝の人違い死刑判決は怖かった。その後も振り上げた拳を下ろせないのか、見張りの看守であったというだけで長い裁判にかけていたし。
ロクシ

ロクシ