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人生をしまう時間(とき)のjamのレビュー・感想・評価

人生をしまう時間(とき)(2019年製作の映画)
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百目柿
天高く朱く熟す刻

千加三さんが家を建てた時に植えた柿の木
娘が失明した時も、妻が脳梗塞に倒れた時も
そして千加三さんが旅立つ時も
いつもそばで見守っていてくれた


娘を支えながら妻を看取った後、
自らも病に侵されていた千加三さん
選択肢はひとつ
このまま柿の木のそばの家で、娘と過ごすこと

そんな彼らを見守り、
手を差し伸べ続けた在宅医療チーム 

森鴎外の孫で東大病院の外科医だった小堀先生を中心に地域医療の一端を担っている


治らない病気になった時、最期を迎える
…できれば、住み慣れた環境、共に過ごしたい家族や友人と

人として、自分だったら
やはりそうしたいと

今、高齢化社会の日本で膨れ上がる医療費や社会福祉費の抑制の目的もあることから
従来の病院での治療を終えたら、なるべく在宅で継続して療養する方向へと進んでいる

私も医療に携わる者として、理想と現実の狭間でもどかしい想いをすることが多くて
もっと、ひとりひとりに寄り添ってケアしたい、そう思っていても
組織のなかでは十分に、満足のいくお世話をすることが難しくて


千加三さんの他にも
52歳の末期癌の里子さんのケース
77歳の母が自宅で介護する
チームのもう一人の医師、堀越先生が心を砕いて親子二人にとって最善と思える治療、緩和療法を模索するさま


最近、
私の勤務先にもホスピス入所待機の患者さんが多く
緩和療法、ケアについて日々考えていることと、
年齢的に自分もそう遠くないことから
ほんとうに突き刺さる想いでスクリーンを見つめて


老老介護のご夫妻の
2年ぶりの入浴シーン
バンドマンをやめて訪問入浴の仕事に就いた友人を思い出したり


そして
観ている間からずっと
私の脳内に流れていたのは
劇団四季のミュージカル「夢から醒めた夢」の曲
"愛をありがとう"

愛をありがとう
優しさをありがとう
さみしいけれど さようなら
いつかひかり浴びて 僕たちは旅立つ
あなたたちの優しさ 胸に抱きしめて


あのミュージカルでは
生前良い行いをすれば白いパスポートをもらえて
"光の国"へ旅立てる

きっと千加三さんも
里子さんも
みんな
白いパスポートをもらったと思って


それぞれの最期
みな、安らかな美しい顔を
優しく映し出し…


百目柿
小堀先生は味わうことができたのでしょうか
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