なべ

ザ・プロムのなべのレビュー・感想・評価

ザ・プロム(2020年製作の映画)
2.9
 ひとことで言うと雑(絶賛レビューが並ぶところ大変申し訳ない)。もっと言うと、ミュージカルってだけで内容問わず絶賛するミュージカル乞食向け作品。
 LGBTQの中でもスルーされがちなレズビアンを中心に据えたのはよし。でもメッセージがシンプルすぎて、すごく頭悪そう。「セクシャルマイノリティを差別するのはいけないことだと思います!」「隣人を愛せよ!」「ヘイトよくない」と、小学生の作文みたいな主張で解決できるなら苦労はしない。ミュージカルだからそれでいいとは言わせない。
 メインはレズビアンの女子高生が好きな女性とプロムに出るために頑張るって話だけど、メリル・ストリープやニコール・キッドマンら大御所演じるブロードウェイ俳優たちの売名行為がここに絡んできてってつくり。
 さすがにgleeのライアン・マーフィーが監督しているだけあって、学園内のシーンはセット、配色、ライティング、モブの動かし方など、とてもいきいきとして瑞々しい。けど、一人ひとりにフォーカスを合わせる手法はドラマのそれ。映画でそれをやられると主役のエマの存在がどんどん薄く軽くなっちゃって…ほんと気の毒。せっかくいい輝きを放っていたのに。
 問題は大御所スターたちの存在。正直、かなりノイジーなのだ。動きのキレは悪いのに存在感だけは大きいから高校生たちを食っちゃうこと甚だしい。
 ハリウッドでもLGBTQの運動で売名するリベラルスターたちがいるが、それを批判しつつ、作品そのものがその売名行為に加担してるような胡散臭さがプンプン。こんな誰でもわかる悪臭に気づかない奴は…うわあぁぁ、みんな気づいてねえ!
 高校生たちの等身大な話が高まってきたところで老害よろしく大御所スターたちがいっちょかみにやってくるって具合。最後にはスターのお金でプロムを開くってなんだかな流れ。相性の良くない二つの流れが、相性悪いまま最後まで並走する感じ。これ一番ダメなパターン。
 「アメリカの息子」であれだけ人種差別を浮き彫りにしたケリー・ワシントンが、娘の性指向に不寛容ってPTA会長を演じているのもなんだかモヤモヤする。いや、演じる役柄が正反対なのは全然構わないんだけど、差別が色濃く残る保守的な地域ながら、人種差別はなくて性差別はあるっていう歪な設定が雑すぎて。ケリー・ワシントンがそこにいることで、いろんな差別問題が去来しちゃうわけよ。保守的な差別主義者役を黒人に演じてもらおうってキャスティングの「配慮(=卑しい目論見)」が設定を歪めてもう何が何だかw ポリコレ自体がもうノイズというね。
 そういう雑さが目に余り、物語への没頭を許さない。
 ブロードウェイ俳優陣にも高校生たちにも気を遣った挙句、エマがバリーを誘ってプロムへって流れに。えーーーーー!この物語のゴールはエマが同性のパートナー(ほら、名前も出てこない)とプロムに行くことだったのに、レズビアン高校生が中年のゲイ男性の夢を叶えるって変なねじれ具合でクライマックスを迎えることに。ぼーーっと観てるうっかり者は騙せても、まともな映画ファンなら気づくわな。
 このように誰を主役にしたいのかはっきり定まらない中途半端さが、作品のまとまりを損ねている。部分部分のカットはよくても全体を通してみるととっ散らかってる。一時が万事その調子なので、せっかくのきらびやかな世界観に雑さが水を差し、華やいだ空気を色褪せさせる。
 「みんなのプロム」と言いながら、トランスジェンダーやAセクシャルには一切触れないのも、セクシャリティの問題を上っ面だけ扱ってる証拠。問題意識の低い人は騙せても、心ある人には見抜かれてしまう。だいたいシスジェンダーと同性愛者の和解のみで「みんなの」と言ってしまえる厚顔無恥さはどうなの? これはそんな失敗作。

 もちろんミュージカルならではの勢いはあるから、これを観て勇気をもらったレズビアンがいるなら、それはそれでいいことなのだろうけど…。
 同じレズビアンの高校生を主人公にした映画なら、ぼくはハーフ・オブ・イットやブックスマートをおすすめする。

 はっ!もしかしてこの作品は、サイゼリヤの間違い探しみたいなことをやってるのかもしれん。ノンケか演じるゲイとか、黒人が演じる差別主義者とか、大スターが演じる落ちぶれ俳優とか、出番がないのに出てるニコマンとか。おかしなところをみんなに思いっきりツッコんで欲しいのかも!

…ああ、またララランドの時と同じ風が吹いてるなあ…
なべ

なべ