にくそん

ザ・プロムのにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・プロム(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ミュージカル映画が性に合うタイプでもないので、そこそこ楽しむことはできても、すごくハマったりはしないだろうと思ってた。でも、これはちょっと違った。もちろん誰も彼もすぐ歌い出すし、デフォルメされた感情表現もあるし、変に明るいところもあるけど、それらがあまり鼻につかず、歌やダンスがストレートに胸に響いてきた。もともと人気の舞台だったものを映画にしているので、脚本や演出がそれはもう鍛えられ、よく練れていて、面白いように感動の大波小波にさらわれる。

歌も初聴きでこんなに耳になじむものかっていうほどキャッチーだし、歌声が生理に合うというか、伸びてほしいところで伸びてきて気持ちがいい。ヒューマントラストシネマ渋谷の上映最終日にodessaシステムで観たのもあって、浴びるような感覚。1回目の「Dance with You」からして二人の声の重なりが綺麗で、話の展開ではまだ泣くようなところじゃないのに、歌声だけで胸が震えた。ダンスは高校生男子(を演じている)チームが入るとキレッキレで見心地満点。ケヴィン役のナサニエル・J・ポトビンって何者なんだろう。ダンスのプロとしか思えない踊りっぷり。

私には社会運動や運動に熱心な人のことをついうさんくさく見てしまうクセがあるけど、女子高生のエマは自分が大好きな彼女とプロムに出たいからそう主張しているだけだし、それに加勢するミュージカル・スターのディーディーやバリーたちは公演がコケたので自身のイメージアップのために押し掛けただけ。そんなところも含め、登場人物がみんな正直でチャーミング。ニコール・キッドマンが売れない大部屋女優みたいな役なんだけど、とてもかわいい。「Zazz」のところ、配信だったらリピートするだろうな。

バリーのお母さんがバリーに会いに来るところ、ご都合主義が過ぎないようにという意図なのか、お父さんのほうはまだバリーを許せずにいる設定にしてあるんだけど、それで私はついバリー母を許した。だって、アメリカの保守的な田舎町に住んで封建的な家庭に暮らす高齢の妻が、何か人生の一大事に関して夫と別の意見を持って行動するのなんか、そりゃもう大変なことだろうと思うもんね。彼女の心も、愛する息子に会えない間、ものすごい冒険をしたんだと思った。

ラストのプロムも楽しい。グリーン夫人の改心は急激すぎたとは思うけど、そこに時間をかけられたところで楽しめないからまあいいや。唯一、気になったのは、ぱっと見たところ、集まった女性同士のカップルはみんな、どちらかがマニッシュな格好をしていたことかな。確かにそういうカップルも多いと思うけど、スカートが好きな女性同士の組み合わせも当たり前にあるよ。エキストラのキャスティングやスタイリングをした人は、同性カップルが同性同士で愛し合っているんだっていうことを、本当には理解できていないんじゃないかなと思った。そこ以外は本当に大好き。劇場公開期間に滑り込めてよかった。
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