あんがすざろっく

ブラック・レインのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

ブラック・レイン(1989年製作の映画)
5.0
僕の敬愛するサー・リドリー・スコットの監督作だ。デビューから映像派として、現在も不動の人気と地位を誇る彼の作品の中では、そこまで評価は高くないだろう。ファンの人にも、ワーストでないにしても、この映画をベストワンに挙げる人は少ないのかも知れない。確かに作品の完成度という意味では、代表作「エイリアン」や「ブレードランナー」にはどうしても見劣りしてしまう。でも僕はこの作品が大好きだ。リドリー・スコットからは外れてしまうのだけど、僕が好きな理由の一番は、他でもない、松田優作である。結局この作品の名を、その完成度と監督のネームバリュー以上に日本に広めたのは、松田優作だと思うのだ。この作品が日本で公開されてから数日後、彼は膀胱ガンでこの世を去る。実は撮影中既に彼は発病していたが、その病気を圧して撮影を続けたのは有名な話だ。正に命を削った遺作だったのだ。当初あまり興行成績も伸びていなかった本作だが、彼の死が観客を呼び込んだ。さて作品はどうだったか。松田優作は見事、観客の期待に答えた。彼が演じた新興ヤクザ、佐藤は、己の欲の為なら、相手が誰であれ白昼堂々の人殺しもいとわない。アメリカ人刑事マイケル・ダグラスと、日本
の刑事高倉健が彼を追う。しかし佐藤はそんな二人を嘲笑うかのように、反抗をエスカレートさせる。この不敵で不気味な佐藤は、ギラギラと輝き、悪の美徳の真骨頂だ。彼は最後のシーンまでそのふてぶてしさを見せつけ、リドリー・スコットをして「この10年で最高の悪役」と言わしめた。作品は日米の文化の違い、ダグラスと高倉両刑事の絆を中心に、まるで近未来都市のような大阪を舞台にしたサスペンスになっているが、その鮮烈さは、松田の狂演が大きく左右している。首を撥ね飛ばすシーンでの、松田の満面の笑み、ヤクザの親分衆を前にした凄み。鬼気迫るという言葉は、彼のこの作品の演技の為にある。後世まで語られる名演を残したのは確かだ。別エンディングも撮影されていたのはよく知られた話だが、そちらも是非見てみたい。「ブラック・レイン ワークプリント版」とかで‼︎無理か…。リドリー・スコットの監督作としても勿論好きだけど、これは間違いなく松田優作の映画である。ハンス・ジマーの泣きのスコアも忘れてはならない。
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