映画好きの柴犬

劇場の映画好きの柴犬のレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
4.1
好きだけど、一緒にいられない

 主催する劇団が行き詰まっていた青年永田(山崎賢人)と、街で偶然出会った女優志望の沙希(松岡茉優)の七年間を描くラブストーリー。

 「花束みたいな恋をした」や「あの頃、君を追いかけた」の系譜に連なる、好きだけど実らない切ない恋の物語。この手の話は、胸が苦しいけど大好き。これら二作と本作の違いは、出会いからこの二人はダメになるって分かってること。努力はしないけどプライドだけは高い演劇青年と、いい子だけど依存体質の女の子。一緒に居ちゃいけない、けど離れられない。分かっているのに、どうしようもできない苛立ちにジリジリする。

 ほとんど二人芝居の山崎賢人と松岡茉優。クズな山崎賢人も良かったけど、他の人は考えられないぐらい松岡茉優力全開の心が壊れるギリギリの演技は素晴らしかった。

 演出的には、「何者」に通じるようなラストのギミックとかが印象深いけど、演劇的演出が効果的。特に、シーンチェンジの度の暗転は、永田の心の闇にも通じたいい演出だった。

PS.
 「花束みたいな恋をした」とは、どちらも失恋の話だけど、色々と対照的だなと思った。花恋は、二人が社会に向き合おうとしたが故に別れてしまう話。だから普通にセックスの描写もある。一方、「劇場」は二人が社会に向き合えなかったが故に別れてしまった話。そういう内向きの話だから、逆に一切の性的な描写をなくしたのかな。