ゼロ

劇場のゼロのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.7
一番会いたい人に会いに行く。

原作である小説を読んだうえで、本作を観ましたが良かったです。原作の永田は、本作品よりも舞台に拘っており、誰のことを気にせずに、自分勝手な行動をする男。所謂ダメ人間なんですが、そこを山﨑賢人さんが演じることにより、ダメ男に説得力が生まれました。

今回の山﨑賢人さんの演技は良かった。ダウナーな雰囲気があり、ちっぽけなことでも拗ねてはいるが、ホントは彼女の沙希を一番愛している不器用さを見事に演じ切っていました。妙な色気もあり、こういう男がヒモになるのだな…と実感しました(笑)

原作に比べると主人公の永田の演劇に関する想いは、省かれていた。永田がただのプータローに見える演出にしたのは残念だが、原作よりも沙希との恋愛面を強調することにより、恋愛ものとして観ることができた。

沙希を演じた松岡茉優さんは、純粋で、素直で、可愛かった。あざとい感じも出ていたが、それはそれで悪くなかった。彼女の優しさに、永田は甘えていたが、この二人の関係は滅びの共依存になっていたので、後半に沙希が壊れていくことに心痛んだ。

行定勲監督の力もあり、淡々と描かれているが、表現にリアリティさがあり、心地よい音楽もあって、良かった。舞台である下北沢も良く、後半の桜のシーンは綺麗であった。

話は言ってしまえば、夢追い人とそれを支える女性。普遍的なテーマであり、珍しい内容ではなかった。ただ原作にもなかった最後の舞台のシーンが胸に来た。永田は、舞台であれば、夢も語れるし、物語を作ることもできる。才能がなくとも、自分の信じた道を選ぶことができる。それがフィクションではなく、ノンフィクションになると何もできなくなるってのが良い。舞台を観に来た沙希が号泣しているのは、きっとそう言ってくれたら、一緒にいる未来があったんだろうな…と想像でき、そんな未来は嘘じゃないと実現しなんだから、叶わぬ恋だったんだな…と想像できる涙。

胸がきゅーとなり、ああ、この物語は好きだな…と思いながら、観終えることができました。

邦画らしい人間関係に趣を置き、男女の恋愛と青春を描いた作品でした。
ゼロ

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