泡沫夢幻

劇場の泡沫夢幻のネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

胸に濃く醜く刻まれた作品だったから、もう7回は観たと思う。それでも毎回感情を上手く言語化できない。

とにかくながくんがはっきり言ってめちゃくちゃモラハラ男。でも、その一言じゃ片付けられないなにかがしっかりとあるから惹き付けられる。

演劇のことを語るながくんを見詰めるさきちゃんの穏やかな眼差しと、さきちゃんがころころとした笑い声でお腹を抱える姿を見詰めるながくんの眼差しが、うまく交わることなんて最初からなかったのかもしれない。それでもどうしてもふたりで過ごすあそこが安全な場所だと思えてしまうのだから、その安全がふたりにとっては痛くて脆くて、細いからこそ、壊れかけていくヒビがよく目立ってしまったのだろうか。気付きたくないことに気が付いた時の胸の苦しさと言ったら、ないからねえ。

ラストのさきちゃんの言葉にもあったように、さきちゃん自身の心を壊したのはながくんのせいでは決してないんだと思う。それじゃあ原因はなにかって考えた時に、あれおかしいな、何も出てこない。あくまでも、さきちゃんにとっての「どうして?」がふたりの間には多かっただけ。あの夜、照れ臭そうに手を握ってくれたながくんの気持ちにはなんの嘘もなかったはず。でもその分、さきちゃんにはもっともっと、嘘がなかったんだろうな。

いつなんど観ても同じところで泣いてしまい、心がずっしりと重くなる作品。又吉さんの原作もとても素晴らしいけれど、松岡茉優と山崎賢人の声色で繰り広げられるこの劇場に好きな瞬間に触れられる幸せを今日も噛み締めております。

ふたりの、純粋に曲がりくねったひと時の劇が恋しくなった時、また観よう。

「一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろうな。」
泡沫夢幻

泡沫夢幻