HIGHINLET

劇場のHIGHINLETのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.4
松岡茉優が演じる沙希ちゃんのような彼女がいたら、居心地がよすぎて身を滅ぼしてしまう。

主人公の劇作家・永田は、
自分には才能があると思い込んでいたが、
演出した舞台はことごとく酷評されてしまう。

プライドを守るため、
哲学めいた斜め上をいったうわ言を並べて冷静を装っていても、不安でいっぱいだった。

そんなとき、現れた沙希ちゃん。

些細なことで笑ってくれるし、
永田が劇作家として名が知れ渡ることを信じて、働かずとも何の嫌ごとも言わない。

何でも受け止めてくれる彼女にだけは、見捨てられたくなかった永田。
でも次第に分かってきたことがある。

才能がないことを。

自分が1番分かっていたから、彼女に悟られたくなかった。

彼女のことは好きだったのだろうけど、

バカにされたくない
自分が正しいと思いたい
他人の意見など聞きたくない

という気持ちが強くて、沙希ちゃんが永田以外のものに目移りするとイラだち、気持ちを考えようとも思わなかったのだろう。

そんな二人はすれ違っていく。

最終的に芝居に固執し続けた永田は、
劇場で沙希ちゃんとの思い出に一区切りをつける。

舞台の上でしか吐露できなかった本当の思いに、切ない気持ちになった。
観客も見届けるしかできないからやるせない。

一方で、ウソでも叶えられなかった誰かの夢を目の前に作り上げ、救ってくれる劇場は必要だと思えた。

映画を通して、
実力のなさを知られたくない気持ちはとても分かったが、そんなことより努力した方がまだ気が紛れるだろう。
気づくタイミングが遅れると怖い。
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