キャッチ30

劇場のキャッチ30のレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.9
 行定勲監督は本作を自ら監督したい理由を三つ挙げていた。演劇を題材にしていたこと。ラブストーリーであること。そして、主人公への共感。

 主人公の永田は親友の永原と劇団「おろか」を旗揚げしたが、前衛的な作風は酷評の嵐で客足が伸びず、劇団も解散状態に陥っていた。理想と現実の間でもがく中、永田は大学生の沙希と出会う。永田は女優志望でもある沙希に惹かれ、沙希の部屋に転がり込み、ヒモ同然の生活を送る。

 物語の構造はありきたりだが、何処か瑞々しい感じがある。下北沢の街並みや自転車の二人乗りも映画に瑞々しさを与えている。通常の恋愛映画に見られる甘酸っぱさは皆無だ。あるのは、男と女の共依存の関係だ。永田は沙希の存在に安心感を得るが、嫉妬とプライドが彼女を苦しめる。沙希も笑顔で永田を支えるが、感情がいつ爆発するか分からない危うさを秘めている。

 だとすると、主人公二人に負うところが大きい。山崎賢人の起用理由について、行定監督は「綺麗な顔を汚してみたかったから」だと述べている。山崎も爽やかさを捨て、髪を伸ばし、陰気な雰囲気を醸し出し、期待に応える。松岡茉優も負けじと爆発力を見せる。泣きながら山崎に怒りをぶつける場面は胸に刺さる。