RAY

劇場のRAYのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.9
“運命”


とても良い作品だと思いました。
幾つか“勿体無い”と感じたシーンもあったのですが、僕はとても良い作品だと思ったのです。


山崎賢人さんが演じたのは、劇団「おろか」の脚本家兼演出家である永田。
彼の作った作品はことごとく酷評され、劇団員とも上手くいかず、理想と現実で悩む日々。
ある日、そんな彼が出会ったのが沙希でした。
沙希を演じたのは松岡茉優さん。
沙希もまた女優になりたいと上京し、アルバイトをしながら学校に通っているのでした。
そして、二人の恋が始まって行きます。


作品自体は近くの映画館で公開されていて、観に行こうとしたくらい(時間が合わず断念)、気になっていたのですが、早く観たいと思ったのは、フォローさせて頂いている方のレビューがとても素晴らしく、そしてとても共感したからでした。

その方のレビューの中で特に観る前から響いたのが、“あまりにも透き通っている人と関わっていると、それが劣等感や怒りに繋がってしまったりする”という趣旨の一文です。
これは自分自身にもすごく心当たりがあって、それだけでドキッとしてしまったのですが、実際に作品を観ると余計に響いてくるものがありました。

表現の中で良いなと思えたのは、永田と沙希の変化が描かれたところでした。
永田はクズで…というレビューも見かけられましたが、僕は永田にも沙希にも共感しました。
人間というのは常に誰かの前で強くいられる訳でもないし、かと言って常に弱いところを見せ続けられる訳でもないと思います。
多分、本当にどちらかが常に強かったり弱かったりするのなら、それはもしかしたら一方的な関係なのかもしれないとも思うのです。
だけど、誰かといることで、上手くいかなかったとしても自分が無理をしていることや自分の弱さに気付けたりするのなら、その相手はかけがえの無い存在なのかもしれない。
どんなに透き通っている人でも、深く繋がった誰かには劣等感も怒りも覚えます。
たとえ、仮に相手がどれだけ“クズ”であったとしても。
それが愛というものじゃないかと思います。


『劇場』というタイトルは人生とか、人と人との関係性を感じさせます。
何かを伝えることはどれだけ近い関係でも意外と難しい。ある意味、演じながら誰かと接していたりもするのかもしれません。
舞台に上がるからこそ言える台詞もあるのかもしれません。


愛とは何か。
誰かと一緒にいるとはどういうことか。
人間の強さとは何か。弱さとは何か。

書いていると『愛がなんだ』な映画な感じに捉えられるかもしれないと思ったけれど、それとはまた違った“人間”を描いた作品だと思います。
僕はすごく考えさせられました。


観て良かった。
RAY

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