春とヒコーキ土岡哲朗

ソー:ラブ&サンダーの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

ソー:ラブ&サンダー(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

信じたいものを信じ切れるなんて、類まれなこと。

たくさんの痛快な瞬間と、2匹のヤギ。うるさいヤギが面白すぎる。姿が見える前から、なんちゅう悲鳴だと面白さが溜まって、いざ姿が見えて大きい2匹のヤギだったとき、笑ってしまった。2匹なのが面白い。ジェーンがソーとしてかっこよさを発揮するシーンに何度もテンションが上がったし、MCUのメンバーが変わっていく中で初期メンであるソーの冒険をまだ観られることが嬉しかった。MCUは長期化しすぎて不安なときもあるけど、スケジュールの都合で離脱していたナタリー・ポートマンをまた出演させて消化不良だった要素を何年も経ってからきちんと回収できるという、MCU長期化のメリットだった。前作に続き、マット・デイモンがお芝居でロキの役をやっていて、こんな贅沢なギャグが一回きりじゃないんかい、という面白さもあった。ソーが一人で敵をせん滅してガーディアンズが浮かない顔をするところは、ギャグでありながらソーの強さが別格であることを表していて良い。前作でヘラに砕かれたムジョルニアが、ジェーンとの共鳴で復活したが、自在に砕けて攻撃するという特性がプラスされているのもかっこよかった。いろんな惑星が登場するSF映画で、惑星ごとに物理の常識が違う描写はよくあるが、ある惑星では映像がモノクロになる、というのは斬新。ソーの力を一時的に授かった子供たちによる大暴れは気持ちよかった。

剣の呪いで力を得たゴアと、ムジョルニアによって力を得たジェーン。
ゴアは、娘を救わなかった神への怒りで、救いの神なんていないと考えるようになり、種族としての神を根絶やしにしようとする。自分がかつて信じた価値観に意味がなかったから滅ぼす、という否定の方向に走っている。彼の立場だったらそうなってしまうのはうなづける。
がんになったジェーンは、生きながらえるためにムジョルニアの力に頼ったものの、その反動で本当は衰弱していっている。しかし、衰弱してもムジョルニアの力で戦うことを選ぶ。目的が、生きながらえることから正義のために戦い抜くことに変わる。自分の信じた価値観のために命を使う覚悟がある。

最後、ソーの言葉で、神を殺すより娘を助けたかったのが何よりの願いだと思い出したゴアは、ひとつだけ叶う願いと娘を生き返らせることに願い使う。ゴアが自分の意思で改心できた救いのある結末でもあるし、そんな真っ当な人間でも受けた仕打ちによって凶悪になってしまうんだという悲劇の確認でもある。
亡くなったジェーンは、勇敢に戦死したアスガルドの民だけが行く地・ヴァルハラにたどり着いた。死後の世界があるかどうかは分からない。でも、自分の信じた価値観のために生きた人間が肯定される結末で良かった。