幽斎

ハロウィン THE ENDの幽斎のレビュー・感想・評価

ハロウィン THE END(2022年製作の映画)
3.8
恒例のシリーズ時系列
1978年 5.0 John Carpenter's Halloween ホラーの歴史を変えた傑作
1981年 4.4 Halloween II 邦題「ブギーマン」はナンセンス
1982年 3.8 Halloween III: Season of the Witch シリーズ番外編
1988年 4.0 Halloween 4: The Return of Michael Myers 作品のクオリティ復活
1989年 3.0 Halloween 5: The Revenge of Michael Myers 脚本の酷さは致命的
1995年 3.2 Halloween: The Curse of Michael Myers 本筋から逸脱
1998年 2.8 Halloween H20: 20 Years Later 色々と凡作
2002年 4.0 Halloween: Resurrection 原点回帰した続編
2007年 3.6 Halloween Rob Zombie版 キャストは豪華だが
2009年 3.4 Halloween II Rob Zombie版2作目 これは「悪魔のいけにえ」
2018年 4.4 Halloween 新シリーズ3部作1作目、レビュー済
2021年 4.2 Halloween Kills 前作、レビュー済
2022年 3.8 Halloween Ends 本作、新シリーズ完結

まぁ今週はコレですよね(笑)。2009年にシリーズは一度途絶えたが、アマゾンやNetflixとの争奪戦を制した皆大好きJason Blumが買い付け、新シリーズ始動。オリジナルJohn Carpenter監督を責任者に迎え、金は出すが口は出さない戦法で、埋もれたオリジナルの掘り起こしに成功。久し振りのTOHOシネマズ二条で鑑賞。

シリーズの時系列を一旦リセット、オリジナルの続編を2018年の新シリーズにダイレクトに結び付けたので、一気見される方は要注意。前作「Kills」制作段階から「Ends」とナンバリングされ、完結編として後顧の憂いなくBoogeymanとお別れ。Jamie Lee Curtis御年64歳、来年で高齢者医療制度の彼女がプロデューサーも兼ねた為、旧シリーズの愛好家に物足りないのはアメリカも同じ。彼女の母親は、スリラーの名作「サイコ」Janet Leigh、親子2代でファイナル「ガール」?(笑)。

David Gordon Green監督は2018年版でタイムラインを整理すべく、「Halloween II」を再現。Boogeyman、Michael Myers、The Shapeと名称が複数あるが、数々の殺戮シーンが登場しても「この殺し方はアノ作品」マニアを唸らせるオマージュ満載。私は「ハロウィン」の良さとは殺人の様式美、つまり「歌舞伎」と思ってる。例えば「Kills」の火事現場は「Halloween II」ラストと同じ、貴方もシリーズの小ネタを捜して欲しい。

原題「Halloween Ends」。sが付いてると言う事は「終端」続きは無いと言う意味だが、注目して欲しいのはシリーズを始動させた、もう一人の立役者おバカ映画の名優Danny McBrideが、3部作の脚本も書いてる事。最終章の本作では「何故、モンスターが誕生したのか?」原点回帰がプロットの要、「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」彼の顔を思い出しながら観て欲しい。シリーズをワイスピ風に言えば2018年版でエンジンが掛かり、KILLSでアクセル全開。本作で最終コーナーを回る、そんなピット風景だ。Curtisはレビュー済「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」アカデミー助演女優賞を獲得したが、彼女にはハロウィンこそマルチバースかもしれない。

【ネタバレ】ホラーなので考察の余地はないけど、自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

前作「KILLS」ローリーの娘カレンがマイケルに殺される、キレッキレッのラストが秀逸。その4年後で観客はCOVIDを意識したモノと思うが、実は前作と本作は続けて制作されており、私的にはワイスピの様に、フルスロットルで本作に突入して欲しかった。良く言えば落ち着いた、普通に言えば勢いが削がれた「Ends」の転調は正直、不評である。マイケル・マイヤーズは開店休業、失速を補う役回りとしてコーリー・カニンガム、新たな「ザ・シェイプ」登場。カニンガムと聞いてピン!と来た方は免許皆伝(笑)。Carpenter監督の代表作「クリスティーン」同じ役名で風貌もソックリ。コーリーとジェレミーが見てる映画は「遊星からの物体X」。随所にCarpenter監督リスペクトも伺える。

前作はアメリカの赤と青(共和党と民主党)の分断を群集心理に置き換えた社会派的な側面も有ったが、レビュー済「スクリーム」「ハッピー・デス・デイ」の様な、スラッシャーを真面目に描くのではなく、おちゃらけた方が配信を見てくれる層にウケが良いので、本作も恋愛パートを無理矢理押し込んだ印象が強く、コーリーに唐突に惚れる描写に全く説得力が無い。アメリカの劇場でも「Is it okay to end up with a man like that!」あんな男と一緒で終わって良いのか!、アリソン・ファンの男性から悲鳴が(笑)。

劣等感に堕ちた結果が暴力に発展する。オリジナルが創られた1978年頃は単にルックスが悪いとかで、現在は露骨に経済的な格差が社会的地位に直結するので、映画「ジョーカー」本質を見極めず見た目だけ模倣する犯罪者が日本にも居る。私は京都市在洛ですが高級車は目に見えて増えた、格差社会は地方にまで忍び寄る。コーリーはToxic masculinity、有害な男らしさの成れの果てがブギーマンと言う着地点。作り手は「誰でもこうなるよ」だろうが、ホラーなのでマイケルを特異な存在として際立たせて欲しかった。

一番の問題点は「マイケル・マイヤーズVSローリー・ストロード」がショボい件。前作とは真逆で本作のマイケルは普通に弱い。御年64歳のヒロインに合わせる様に、マイケルも歳を取り「老々対決」とでも言いたいのだろうが、観客が求めるモノとは明らかにベクトルが違う。ローリーが一方的に強過ぎるので、アベンジャーズを見てる気分。ザ・シェイプ二代目コーリーも終盤は見せ場無し、シリーズを通じて出演Andi Matichakはレビュー済「呪われた息子の母 ローラ」主演を張るまでに成長したが、彼女の設定も不安定で、ローリー以外のキャストに整合性を感じない。アメリカでは「Michael!Didn't you get the vaccine?」マイケル、ワクチンを打って無いのか!とヤジが飛ぶ始末(笑)。

良かった点はラストシーン。結局リブート3部作はCurtisの物語と言う事。ローリーの住んでる家の無人の部屋をカメラを固定して撮影。此れはオリジナルのラストをモンタージュ。違いはオリジナルは夜のシーンでマイケルの息を吐く音が聞こえるが、本作は朝のシーンでマイケルの気配も息を吐く音も無い。マイケルが粉々に亡く為る事とは別に、ローリーを演じ続けたCurtisの心の中に潜むマイケルも死んだ。しかし、アメリカの評価は皆さんが思うより遥かに低い。ソレは「Ends」を名乗りながらファンの期待に応えてない。ソレも含めオスカー俳優Curtisの物語を見届けた意味も込め、3.6から上方修正。

監督のコメントでエンディング候補は3パターン。1つはローリーがマイケルに殺される前に自殺、アリソンが敵を討つ。2つ目はローリーはマイケルを仕留める、コーリーは生き残りアリソンと共にハドンフィールドを去る。完成版ではローリーとフランクが東京へ桜を見に行く(笑)。後日談として「ハロウィン」の権利を保有するのはユニバーサルでもブラムハウスでも無い。Carpenter監督を資金面で支援したシリア人Moustapha Akkadの息子で2007年版「ハロウィン」から制作するMalek。親子二代でシリーズを見守るが、本作の出来には相当不満らしく、ブラムハウスとは手を切ると公言。

やはりCurtisに気を遣い良く描き過ぎた事と、スラッシャーの本分を忘れてヒット作に迎合したJason Blumに相当腹を立ててるらしい。噂ではCurtisは引退するが、若いヒロインを招く構想は既に有るそうで、メジャーUniversalも熱りが冷めた頃にシレッと「シン ハロウィン」始動!とか言い出すのは確実なので、ファンも座布団を敷いて待ちたい。

「テリファー」続編を見て良く考えて欲しい。マイケル、次はワクチンを打てよ(笑)。
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