悪魔の毒々クチビル

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

4.2
Wakanda forever.


もうブラックパンサーも続編公開ですよ。早いものです。
最近はアメコミ映画をさっさと観に行く理由が「楽しみ」よりも「ネタバレ回避」の方が大きくなっているとは言え、直近のエンタメ路線に振り切った「ソー」やホラー要素を取り入れた「DR.ストレンジ」の新作なんかは結構楽しめたのでまだ飽きてはいないです。何やかんやでね。

今作を語る上で欠かせないのがチャドウィック・ボーズマンの早すぎる逝去。
ブラックパンサーという黒人ヒーローのアイコン的存在でもあった彼抜きで一体どうなるのか。そもそも続編制作されるのか。等々悲しみとともに様々な疑問も残されましたね。
個人的にはこれまでもハルクやウォーマシンといったメインキャラの俳優交代はあるにはありましたが、今回代役無しで続けたという判断は支持しますね。事情がこれまでと全然違うってのもありますが、チャドウィックへの敬意を表す方法の一つとしてベストではあると思いました。

本編開始からいきなりティ・チャラが死に至るまでを描いているので、MCU史上最も重く悲しいオープニングとなっています。あとお馴染みのオープニングクレジットも多分変えてくるだろうなとは思っていましたが、その通りでしたね。
全体的には内容が内容なだけに暗めというか、基本的に喪失による哀愁が拭えない雰囲気があり今まで以上に各メインキャラの心情に焦点が当てられています。
大体どのMCU作品にもあるコメディ要素も、今作は軽く冗談を言い合う程度のもので作品の空気を壊さないくらいに抑えられていて、そこは評価高いです。
ヴィヴラニウムを駆使したワカンダの最新テクノロジーや武器が前作よりも洗練されたものになっていて、そこも良かったかな。

新ヒーローのアイアンハートもスーツ含め印象的ではあったんだけど、彼女が深く考えずに発明した物のせいで大分悲惨な出来事へと繋がってしまうのは大丈夫なんですかね。そう言うところ、スタークっぽいっちゃぽいけど。

前作同様、舞台はワカンダだけでなく各国や海底都市タロカンだったりと行ったり来たりと物語が忙しないんだけど、今回は失意の底にいるシュリ達の行く末が気になるのもあってかダレているなと思う事は無かったです。
相変わらずヴィラン側もしっかりバックグラウンドを描いていまして、今回のヴィランであるネイモアも彼の行動原理が理解出来る造りになっていました。が、同時に自分の内なる暴力性に身を委ねているというか心頭している一面も普通にあったので今更個性的に映る、とまでは行かなかったかな。
それでも終盤のシュリが選ぶ道との対比にはなっていて、分かりやすい関係性ではありました。
正体がアレなのは今後の展開への伏線なんですかね。一応原作通りの設定でもあるみたいですけど。
因みに「インフィニティ・ウォー」の元ネタコミック「インフィニティ・ガントレット」ではヒーローとしてサノスと戦っていました。瞬殺されてたけど。

あとどうにも嫌な褒め方になっちゃうんだけど、劇中のワカンダ側のちょいと性急じゃね?と思えちゃう決断や考え方も家族であり王であり守護者であったティ・チャラを失った為にこれ以上家族を失いたくないという焦りや恐怖を常に抱えている事を考えると、妙に納得出来ちゃう所もあって。特に今回はね。
重厚なドラマ要素にどうしても生まれる不自然さを半ば強引に突破している印象でしたが、それでも観ている間は映画から気持ちが離れる事は無いどころか目が離せない状態で2時間半超えの長尺を体験していたので俺自身、未だにチャドウィックがいなくなって寂しく思っていたんだなと改めて気が付きました。

予告にも出ていた新ブラックパンサーですが、一応ネタバレはしませんけどまぁ、皆ね、多分察しは付いているでしょう。
アクションはしなやかで格好良かったですが、個人的には何処と無くティ・チャラを彷彿とさせる蹴りがあったのがポイント高いです。

前作でキルモンガーに斬られた描写で突っ込み不可避レベルで流血無しのシーンがあって、アレかなり萎えたんだけど今作も終盤のワカンダ人vsタロカン人のバトルで互いに刃物系の武器メインでやっている割に全く斬られた感じがないのは残念でした。
海でまぁまぁメッタ刺しにされていたっぽいけど、めっちゃ綺麗な海のままだったもんな。鮫も素通りするレベルの澄み具合だったよ。
あれ全部逆刃刀なんですかね。
例えば「ソー」の3作目とかはヘイムダルが脚斬られた所を雑ではありますがちゃんと血が吹き出ていたりとね、やったりやらなかったりと中途半端でイマイチ戦闘に説得力や緊迫感が生まれないのでそう言う所も意識はして欲しいですね。
逆にラストのパンサーとネイモアの一騎討ちだけ、生傷が出来るくらいには殴り合っているのでちょっと浮いてたな。
せめて「エンドゲーム」のラストバトル程度には、見た目からも激戦が伺える様を見せてくれればなと思います。

ただ明らかに不満に感じたのはそこぐらいで、寧ろアメコミ映画的なサプライズ盛り上げはほぼ無しで引き込んでくれたのはかなり有難い。
結局今後のワカンダと他国の距離感とか気になる所もありますが、チャドウィックへの追悼や功績を称える作品としては素晴らしい出来でしたし、俺としても今作はその悲しみを如何に乗り越えるかが一番気になっていたのでこの路線がベストだったのかなと。
他作品への余計な目配せをせずにあそこで終わらせたのも大正解だと思いました。