群青

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーの群青のレビュー・感想・評価

4.3
2022年劇場鑑賞11作目。
吹替で。

本当は遠出してでもIMAXレーザー案件だったんですが、一つは時間の都合上、そしてもう一つの理由は後述。


重い。本当に重かった。


主役チャドウィック・ボーズマンが亡くなってしまい、MCU仕掛け人であるケヴィン・ファイギが、リキャストやCGでの復活はさせないという判断を発表してから、分かってはいたことだけど。それでもこんなに重い作品になるとは思わなかった。

冒頭いきなり始まるのは、危篤状態のティ・チャラをなんとかしようと奮闘するシュリの姿から。そして顔を見ることなく死を告げられる。
観客は病のことをほぼ誰にも告げずにこの世を去った彼の死を、同じような演出でもう一度告げられる。
こんなにショッキングな冒頭はない。


ストーリーも重い。
前作で開国に踏み切ったワカンダは、王の不在を弱みと思われ、ヴィヴラニウムの略奪という苦境に立たされる。
ここで啖呵を切るのが代わりに王女となった母、ラモンダ。今作のMVPその1。
ワカンダは国際社会に王がいずとも健在であることを叫ぶ。かっこいい。

ワカンダのせいでもう一つの国、海底帝国タロカンも国の存亡を危ぶまれることになった。
シュリは王ネイモアから聞いたタロカンの話に共感する。共に喪失を経験し、また世界に憎しみを持っている点で。
しかし人一人の共感ではどうにもならないのが国際社会。そして、人一人が起こす小さなきっかけで戦争が起きるのもまた国際社会。

話し合いが足りない、という意見もあるが今作は話し合いがないわけではない。足りないと言われたら足りないかもしれないが、そうなる前に事態が悪くなってしまった、ただそれだけ。
自分がどうしようもないところで事態が進んでしまう、または戦争したくないという姿勢でも起きてしまうのが、戦争というものなのだろう。

そして戦争が終わりのない憎しみの連鎖であることが、ハッキリしてしまうのが後半。
ラストバトルに至っては一方的な正義は存在せず、どちら側も正義があり大義がある状態。
そこには始まってしまったという不毛さしか残っていなかった。

どうにかならなかったのか、対話が足りなかったのではないか、やられたらやり返すしかないのか、逃げることができないなら攻めに出るしかないのか。
ただただやるせなさしかない。
しかも観客はこの数ヶ月で世界で起きていることとどうしても重ねてしまうためやるせなさは増すばかり。


シュリを演じるレティーシャ・ライトはMVPその2。本来であればお転婆な妹という立場のはずなのに、兄の死に直面して否が応でも大人にならざるを得ない葛藤と、否が応でも主演を演じなければいけないプレッシャーが、重なって良かった。
前作から続けて吹替をしたももクロの赤も、個人的にはMVPだと思う。
サブキャラのタレント吹替として起用されたのに主演を演じなくてはいけなくなってしまった。しかも、実際の俳優の死を受けてストーリーも変わってしまった。演ずるシュリも変わってしまった。
演技的にはまだまだ本職には及ばないものの、シリアスな演技も十分雰囲気を出せていたし、何よりやるしかないというプレッシャーにも負けず食らいつこうとする様が逆にシュリらしい。声優を変更しなかったスタッフの采配は素晴らしい。

さらに、ネタバレだから伏せるけどシュリはある幻に出会う。
それは兄の命を奪っていった世界の不条理と、何もできなかった自分の無力感への憎しみに囚われる彼女にとって、相応しい相手だった。
サプライズ!
ここで安易にCGで復活させなかったことを賞賛したいくらい。むしろ、あの人が現れることによってシュリが復讐心に囚われ闇に堕ちそうになっているのかよく分かる。


終始重たいし扱うテーマもテーマなのでカタルシスはほとんど感じられなかった。実際の戦争だってそうでしょと言わんばかり。エンタメに振り切らずリアルに寄せているのは正解だと思う。

一方で、喪失に対しては映画だけでしかできない表現と演出で解答を示してくれた。
本作のボロ泣きシーンはここ。序盤で示された伏線を使って演出で彼を追悼する。
結構な人を重ねただろうが、この崇高な弔いに匹敵するのは、個人的オールタイムベストであるワイルド・スピード:スカイ・ミッションくらいしか思いつかない。

タオル持ってきて良かった…


オコエ姉さんもめちゃくちゃカッコよかったし、暗闇から声だけでひとを操るタロカン人も良かったし、他にも色々良かったけどフェーズ4の締めくくりがこの作品で良かった。


彼の想いは観た人みんなに届いたと思う。
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