とりん

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのとりんのレビュー・感想・評価

3.8
2022年94本目(映画館46本目)

MCUの単独作品では一番好きなブラックパンサーの続編、すごく楽しみにしてた。しかしながら2020年に主役のチャドウィック・ボーズマンが亡くなってしまいすごく悲しみに包まれた。それでも製作陣は足を止めず、新たなブラックパンサーを作り上げてくれた。
冒頭のMARVELのロゴからティ・チャラのブラックパンサー仕様になっており、思わず泣きそうになった。最初から最後までティ・チャラ、もといチャドウィック・ボーズマンの盛大な追悼作品にも感じた。ファンにとっても未だ喪失感が抜けていないところに、これほどまでに彼の死を受け止め、前に進ませてくれようとしてくれる作品は他に描きようがなかったと思う。これは作品の登場するシュリやワカンダの人だけではなく、観ているファンにとっても喪失と再生の物語だといえる。
ボーズマンが亡くなった時に、ティ・チャラの代役を立てるという選択肢もあっただろうし、もし彼が作中の設定で亡くなるというにしてもあっさりと片付けることはできただろうけど、そこはしっかり彼の死と向き合い、こういう描き方にしてくれたのは、一ファンとして嬉しかった。ポストクレジットに描かれたこれからの希望のある終わり方は、自分たちも振り返ったり、立ち止まっているだけでなく、前を向かせてくれた。いやぁそこは素晴らしかった。
ブラックパンサーって黒人でアフリカ系が中心となっているからというだけじゃなくて、ストーリーや雰囲気自体も他のMCU作品とは少し違うと感じている。本作も前作に引き続きそこは感じていて、その辺りは前作から続投してくれているライアン・クーグラー監督の魅せる技なのだろう。そして今回のこの演出は見事だった。

ただ個人的にはストーリー展開、一部がイマイチ腑に落ちないというか特に後半が少し納得できなかったりもした。
今回ワカンダの民たちと戦うのは海の王国タルタン。決して彼らは悪いことをしていたわけではなく、元々虐げられていた過去があり、その地上からなんとか海に逃げて進化し、長らえてきた種族。だからこそ地上の人たちに強い憎しみを抱いていて、その復讐をしようと長い間力を蓄えていた。そしてそのキッカケとなるのも自分たちの領域を侵されたからである。しかもそれを生み出したのがアメリカというのがまたなんとも。さらにこのアメリカ原因なのは最後まで追及されずに解決もしない。
アメリカに攻撃したのがワカンダと勘違いされ、その誤解を解くのに合わせ、シュリがさらわれたりなどがあり、戦いへと発展していく。うーん、やはりこう思い出しても、戦いの理由が薄いというか、他のMCU作品に比べるとそこらへんの戦う意味が軽薄すぎる気がする。特に最後の戦い、あの戦闘狂的なエムバクですら避けようとしたくらいなのに、王女の権限とブラックパンサーの権威を使って無理やりにでもシュリはワカンダとタルたんの戦闘へと足をすすめた。最終的には戦争までには至らず、あそこで手を止めたシュリは偉いかもしれないけれど、あまりにも血が流れすぎだし、命も奪われすぎた。タルタンの長であるネイモアは地上の人たちにあまりにも強い憎しみと復讐への使命感は持っているが、話の分からない人間ではないし、何より自分の国の民を守りたいという意志を強く感じた。だから無理な持ちかけをされたとはいえ、そもそも話し合いをしようとしていたネイモア相手に、談合による和解への導きはできたはずなのだ。あのエムバクが女王が殺されたから戦争するという大義名分があっても、戦争はしない方がいいと言ってるんだし。なのに憎しみのあまりのこの様。憎しみは新たな憎しみと悲しみしか生まず、肉親の死の悲しみと憎しみから立ち上がる話なんていくらでも描かれてきた話だからここであえてこういう筋書きにする必要はなかったはず。それならもっと悪いやつが出てきて戦った方がまだ良かった。あまりにもタルタンの人々が不憫すぎる。

戦いのスケールに関しては直近がソーとかストレンジだったりするから、規模感や迫力とかは比較するのはナンセンスではあるし、多少見劣りするのはあるとして、ブラックパンサーはその辺りも一線引いてる気がする。それでも個人的にはオコエとかの槍で戦う姿やエムバクが一緒に戦う姿、ブラックパンサーの戦う姿にはやはりグッとくる。でもそのオコエがスーツを纏うのは違う感否めない、まだパワープレイでどうにかして欲しかった。
一部、シュリが従兄弟に会うシーンとかを思うと、やはり1を見返せば良かった感は否めなかった。
チャドウィックが亡くなったから、新しく脚本を仕立てたのだろうけど、これはこれで悪くなかったにしても、ちょっとストーリー自体が軽薄になってしまったかな。ティ・チャラに対しての敬意と素晴らしき餞な作品としては非常に良かっただけに、そこを除いてしまうと、なんともかもしれない。でも戦う理由とかを除けば、十分好きな作品ではあったと思う。ちょっと期待しすぎてしまったところもあるが。
とりん

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