ほーりー

巴里の屋根の下のほーりーのレビュー・感想・評価

巴里の屋根の下(1930年製作の映画)
3.5
観終わった後、しばらくあのメロディーが頭の中でループしている。当時、日本でも歌(田谷力三のカヴァー)が大ヒットしたそうだがそれも頷ける。

ルネ・クレール監督の恋愛映画『巴里の屋根の下』はトーキー初期を代表する作品のひとつ。

内容は他愛もないのだが、作り手たちがやろうとしたことはかなり画期的で、それだけでも十分映画史に残る作品だと思う。

戦前の一連のフランス映画を象徴する「詩的リアリズム」という言葉が昔からピンと来なかったのだが、本作を観て何となく言葉の意味がわかったような気がした。

パリの街並みを再現したセット。しかしどことなく現実とは違ってお伽噺や詩の世界の中の建物の雰囲気がある街並み。

このセットを作ったのが美術監督のラザール・メールソンという人で、この人の弟子がのちに大美術監督のアレクサンドル・トローネルである。

のちにトローネルが手掛けたワイルダーの『あなただけ今晩は』もどこか現実場馴れしているセットだけど見事にパリの雰囲気が漂っていて、その原点はここにあったのかなぁと感じた。

そして極力説明的な台詞を排して、映像と音楽だけで主人公たちの感情を表現しようとしたクレール監督の演出方法は、観る者の想像力を刺激させるまさに詩そのもの。

特に恋敵である窃盗団のボスと主人公の決闘シーンは、暗がりや汽車の蒸気であえて全容を見せないのが巧いと思った。

あと印象的だったのは、やはり冒頭。カメラは林立する屋根の上の煙突からそのまま下に移動し、路上で恋の唄を歌う市井の人たちへゆっくりと焦点を合わせていく。

当時、勿論ドローンなんてない時代に、よくこの映像を撮ったなぁと思う。

クレーン撮影かなと思いきや「週刊20世紀シネマ館」によれば、何とレールを長い斜面に敷設してカメラを載せた台を綱引いて撮影したという。

だけど途中、明らかにアパートを真上から縦にスクロールして撮ってるシーンもあるし、あれは流石にクレーンじゃないと厳しいと思うけどなぁ。

■映画 DATA==========================
監督:ルネ・クレール
脚本:ルネ・クレール
製作:フランク・クリフォード
音楽:アルマン・ベルナール
撮影:ジョルジュ・ペリナール/ジョルジュ・ローレ
公開:1930年1月2日(仏)/1931年5月31日(日)
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