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夕陽のあとのnanaのレビュー・感想・評価

夕陽のあと(2019年製作の映画)
4.2

胸に突き刺さる作品でした。

ネットカフェで起きた乳児置き去り事件。
そこから七年後のそれぞれの「親」。


不妊治療を諦め、特別養子縁組を望む五月と優一の夫婦。
七年間、里子の豊和を育ててきた。
家族の絆を深め、本当の親子のよう。
実績を積み本物の息子として迎えられるはずだった。

しかし、豊和の本当の母親を知り、その身近過ぎる存在に驚愕する。

実母が豊和を手放さなければならなかった、悲惨な真実。
DVと自殺未遂、そして置き捨て事件。

「貧困と孤独の中にいる人は助けを求める術を知らない」

追い詰められた悲しい親子だった。

親権を主張し対立する二組の親。

「私がここを出る時は豊和と一緒。」

「みんな持っているじゃないですか、家族も家も仕事も仲間も。
私には何も無い。一度手放したら二度と抱きしめる事はできないんですか」
孤独な実母の叫び。

それならば、と優一が茜にしたとんでもない告白。

もうどうなってしまうのかと驚いたが、優一はこの人に惹かれていたのではないだろうか?
実はずっと前から。
私はそんなふうに感じた。

自分の生い立ちを知らず、何も気づかないまま、優しく胸に響く言葉を投げる豊和。


どちらの親も豊和を愛している。
一歩も引かない両者の気持ちは当然だろう。

ネットカフェで乳児と暮らす事なんて無理に決まっている。
赤ん坊の泣き声を疎まれ、身を小さくして震える姿がせつなかった。

私の行った上映回では、男性女性とも啜り泣く声が多く、感情移入してしまう作品だった。


重いテーマだが、嫌な気持ちにさせない作りになっている。

キャストが魅力的に映るよう重点を置いたと監督が語っており、それは大成功したと思う。
だから感情が入る。

夕日の後の空の映像が美しい。
音楽の少なさがこの作品をより引き立てている。

貫地谷しほりは凄い女優だと思った。



観て良かった
nana

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