Yu

海辺の映画館―キネマの玉手箱のYuのレビュー・感想・評価

3.9
映画には果たしてどんな力があるのだろう

現実から離れ、束の間の夢を観ることができる映画館は至福そのもの

観終わった後も余韻として家までの帰り道やその夜に眠りにつくまで、更にはもっと長い間、心に幸せをもたらしてくれる

かと言って、そのまま傍観者のままで終わらず、世の中の何かを変えようと行動に移すことは、実際には起こり得るのだろうか

半径5メートル以内の出来事しか描けていないと揶揄される一部の日本映画はさておき、確かにメッセージ性の強い作品は人種差別やLGBTQ、貧困など、長い年月を経て世の中の意識を着実に変えていっている

プロパガンダ映画が ある一定の役割を果たしたように、娯楽という楽しみの中で少しずつ生活者の価値観を変えていっているのは揺るぎない事実であるだろう

そして、この大林宣彦監督最期の作品では戦争という行為の産み出すものを決して風化させてはならないという強い思いが、1人で何役にも多人格化する表現演出によって幾重にもしつこいほどに描かれていく

前衛的ともとれる大林監督の荒々しい作風を久しぶりにスクリーンで目の当たりにしたことで、映画の “クオリティ” とはその映画の、メッセージ “力” であり、行動を喚起する “力” のことなんだとまざまざと思い知らされた

奇しくも鑑賞した日は8月6日
監督の願いがこの日とともに脳裏に深く刻まれたことは全くもって過言ではない
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