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高津川のodyssのレビュー・感想・評価

高津川(2019年製作の映画)
2.5
『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の錦織良成監督作品です。
いずれも、監督の出身地である島根県の地方自治体を舞台にして、地方での生き方をテーマにしているという点で共通しています。

しかし、『RAILWAYS』は出雲市という、島根県では有数の都市を舞台にしていて、いったん首都圏で家族を作った中年男が実在の私鉄に再就職する話でした。つまり、地方が舞台だと言っても、現実味があるストーリーだったのです。

この『高津川』も、実在の地方自治体・益田市が舞台ではありますが、益田市は島根県でも山口県との県境に近い場所であり、人口も少なく、またこの映画は市内でも山間部の、牧畜業を中心とする地域の人々が主人公なのです。少子化で小学校も廃止になってしまう有様なのです。

それだけに、地域に生きることはかなり困難を来すはずですが、この映画はその辺を突き詰めて考えていません。

この作品では、一種の「悪役」が、地元出身ながら都会の大学に進学して今はそこで弁護士をやっている中年男なのですが、彼は地元にリゾート開発の計画が持ち上がっていると聞くと、賛成します。それに対して、地元に残っている彼の同窓生たちは反対している。

地元民は、「一級河川で唯一ダムがない川である高津川の清流を守る」ことを信条にしている。

しかし、冷静に考えてみて欲しいんです。地元の小学校がなくなるくらい住民が減っているんですよ。このまま放置すれば、やがて誰も住まない地域になりかねない。牧畜業に惹かれて都会から移ってきた若い女性もいるという設定ではありますが、そういう人間が多数いるわけではない。新しい産業を導入しなければ、「清流残って人間住まず」の地域になる可能性が高いのです。リゾート開発に頭から反対するのではなく、清流を守ることと新しい産業を導入することの両立を図るべきなのではないか――そう私は思います。

その辺の脚本の詰めが甘いんですよね。小学校がなくなるほど人口が減っているわけだから、地元の菓子屋(製造を兼ねる)や寿司屋だって経営が難しくなりそうなのに、そういう面が全然描かれていない。弁護士は最後には「いつか帰ってくる」と言いますが、こんなに住民が少ない地域で弁護士業が成り立つとは思えない。

菓子屋の娘は、老母の介護をするために嫁にも行かずに実家に残り、菓子屋を継ぐと言っていますけど、そして弁護士は「母は施設に入れて、嫁に行けばいいのに」と言って白眼視されるのですが、若い世代が老親の介護で結婚を断念するのは不健全であり、弁護士の言い分が正論だと私は思います。少なくとも彼女の生き方は「美談」などではない。

その辺、きわめてアナクロな映画なんですよね。地域の維持・振興を本当に考えているとは思えない。

この映画でいいと思えるのは、景観の美しさと、地元の伝統芸能(神楽)でしょうか。

でも、伝統芸能の神楽にしても、牧畜業を営んでいる中年男の息子(高校二年生)が練習をやりたがらないという設定が最初に出て来るんですが、その辺の動機付けがちゃんとなされていないんですよ。つまり脚本が甘いんです。

総じてこの映画は甘い。それは監督が地域で生きることを「清流を守る、先祖伝来の生き方を踏襲する」こととしか理解せず、日本の地域で過疎化が進行しているのはなぜなのかを本当には考えていないからでしょう。

いいところもあるのではありますが、残念な映画と言わなければなりません。
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