スクラ

アラビアンナイト 三千年の願いのスクラのレビュー・感想・評価

4.0
<使い古された題材で新鮮な物語を作り上げる>

物語の存在そのものを研究するアリシアの目の前に現れたジン。
テンプレの3つの願いを尋ねるジンに対して、過去の物語を教訓に「願いは無い」と告げる彼女。
彼女は願いよりもジンにこれまで願ってきた人々の物語が気になるよう。ジンから語られる物語には人の様々な欲望が渦巻いている。

せっかく物語論研究者が主人公なので、本家の千夜一夜物語の構造と比較してみた。
本家は物語の語り手はシェヘラザード(女)、聞き手が王(男)であったが、
この映画では語り手と聞き手の性別が逆になっている。
これってけっこうなポイントだと思う。物語が伝承される1つの方法として語り手による伝承があるけど、
この語り手を担うのってたいていは女性。
なので、この映画で語り手が男性となり、性別による役割からの脱却が図られているところが新鮮に感じた。
時間なくてちゃんとした文献使って調べてないし、本家もシンドバッドが語り手になっている話もあるようなのでこじつけかもしれませんんが…。

役割を交換しつつも、枠物語というお話の中にショートストーリーをいくつか入れていくスタイルは本家と同じ。
さらに、ジン(語り手)の話を聞くことで、アリシア(聞き手)に変化が起こる部分もシェヘラザードの話を聞いた王が心を入れ替えるところを踏襲している。
ここを変えないことで監督版の『アラビアン・ナイト』を描いたって意志が強調されたと感じる。

で、ここにきてようやく「では、監督版のアラビアン・ナイトってどうだったの?」と映画そのものの感想に入れる。
私は監督版の物語、かなり好きだった。
ジンから語られる話は支配欲・愛欲・知識欲、人間の欲望にまつわる普遍的な話で、
それぞれの物語は「いかにも物語としてありそう」なものたち。
これらの物語を聞いたアリシアの答えがうまいな…と。(ネタバレにもなりそうなので、コメント欄の方に詳しく書く)
王道を基盤にしつつ、監督の感性を巧妙に混ぜ込んだのが今作。そこがめっちゃいい。
スクラ

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