カルダモン

アラビアンナイト 三千年の願いのカルダモンのレビュー・感想・評価

4.1
科学が全ての神秘を説明し尽くして物語の入り込む余地がない現在、なおもヒーロー像を作り出して物語る。人間と深く結びついているのが物語。人間とは物語。
監督ジョージ・ミラー曰く、オーストラリアの先住民の中には数千年前から今現在に至るまで壁画を描き続けている文化があるそうな。物語は世界の神秘を伝えるためにあり、人々をつなぎ合わせ神秘に意味を与えてきたのだと。


昔々あるところに、
人々が鉄の翼に乗り、
手のひらのガラスの板で
情報を得ていた時代の話──

物語とは何か、という問いを物語として示してくれる。その温かみが沁みて、物語とは古今東西どこにでもあり自分の中にもあるということをジンワリと考える。そして物語とは繋がりそのものであるということも。

アリシアは物語論者。少女時代にイマジナリーフレンドを捨てて、自分には物語がないと考える故に物語を追い求めている。
魔人ジンに[願いはなにか]と問われても自立した生活に満足しているアリシアはなにも思いつかない。なにより世界中の物語に精通している彼女は望みを叶えた先の結末には必ず何かの代償があるとわかっている。

物語を求めるアリシアと、アリシア望みを叶えたいジンの関係性、見た目もキャラクターもまったく異なる二人が交わすやりとりが興味深く、この物語の中に取り込まれていった。やがて何も望みがないと思っていたアリシアの中で封印されていたものが溶け始め、ジンの語る三つの物語が最終的にはアリシアの物語となっていく。

世界は物語だらけ。
誰も彼もが自身のストーリーを語り、時々自分とは何なのかわからなくなる。この世に言葉がなければどれだけスッキリするかなと思ったこともあるが、しかし人間は生まれながらに世界の語り部であり、人と社会、自然と文化、歴史と想像、心や体に刻まれた体験を語って世界を表現することができる。素晴らしいと思う。