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hisのjamのネタバレレビュー・内容・結末

his(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

映画を観る時、登場する誰に共感できるかがその作品を楽しむひとつのポイントだと思うのです。


そういう点で言えば、今泉監督のこの作品で私の心が寄り添えたのは、渚の妻、玲奈。
愛した人と結婚し、
その愛の結晶の空を授かり。
結婚の時、自らのキャリアを諦めたくなくて渚と約束を交わして。
フリーランスとしてがむしゃらに働いて、ふと気づけば。
主夫として頼りにしていた渚に異変が。

この人だと思い、添い遂げる覚悟は脆くも崩れて


一方の迅と渚の物語
その愛が本物であれば
好きになることは誰にも止めることは出来ない
たとえそれが男性同士であったとしても

おそらく
自らがマイノリティであることを自覚したその日から常に負い目を感じて
それ故に突然、別れを告げられても反対もせず
人との関わりを極力排除して生きる道
迅の静謐な世界

諦めを日常として受け入れられたその時
再び目の前に現れた渚

迅の揺らぎ

繊細な表情の変化が
何よりも彼への本心から湧き上がる熱を伝えて。

二人に比べて渚は
その時その時の思い込みで行動しているように感じられて。
だからこそ、いちばん人間臭いのかと。
彼なりに玲奈や空を想う気持ちもあるけれど、
最終的に、本能の声に素直になると。

俺が求めてたのは男の体とかじゃない
迅だって
迅が居ないと生きていけない


玲奈の立場からすれば
それこそ天変地異ほどの驚きから
怒り、哀しみ、それを乗り越えて
空と二人で生きていく覚悟を決めて


離婚調停のリアル
弁護士の容赦ない詰め寄り方に
証人である美里が口籠るシーン
過去に私も、とある裁判に証人として出廷したことがあり、その時の精神的なキツさがまざまざとよみがえり…


最近多く描かれているLGBTをテーマとした恋愛映画、と思って観に行くと
ここまで掘り下げる?という驚きがあり…

沈んでしまいそうな内容のなか、根岸季衣
演ずる地元のおばちゃんの「この年になったらもう、男も女もどっちでもええわ」で胸がすうっとして。


優しくないのは世界じゃなくて
自分だと気づきました
自分が優しくなれば世界も優しくなる

そう言って自らの心をさらけ出せた迅を
白川の緑あふれる自然と
あたたかい人たちが改めて受け入れてくれたようで


ラストの玲奈の顔つきも
少しだけ柔らかくなり安堵して


誰かと出会って
影響を受けるのは
人生の醍醐味
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