柴田龍

シン・ウルトラマンの柴田龍のレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.2
そんなに人間が好きになったのか

日本を立ち上げるテレビシリーズとしての命題を背負いウルトラマンは始まったと、あらゆる過去の資料で書かれていることから、制作には多くの制約が課され、真の創作者の手から離れてしまった部分や、意図しない設定が盛り込まれてしまっていたと容易に考えられる。

シン・ウルトラマンはその縛りのようなものから解き放たれ製作された、ウルトラマン初の自由な作品ではないだろうか。

外せない設定とオマージュの波を、庵野節が華麗にかいくぐって描く、日本と宇宙の第一種接近遭遇は、とてつもなく自由だ。

連綿と人間に喜びと勇気を与え続けるウルトラマンが、思考し、苦悩し、一心不乱に人を学ぼうとする姿。
そして、日本の法律、国際ルール、光の国の掟が迫る中、一歩も引かない姿勢に投げ込まれるゾフィーの問いは、この作品に没入した全ての人に、最高の自問として心に響くはずだ。

ヒーロー再創出の作品は難しい、すでに確立されたファン心理とのせめぎ合いが必ず巻き起こり、その作品に対する純然たる評価となりようがない場合が多く、レビューを容易に信じられないからだ。

光の巨人が怪獣をバッタバッタと薙ぎ倒す姿に夢中になった世代は、冷遇の時代を過ごす中、人間不信に陥り、何のために生きているのか見えなくなる時もあるだろうが、まだまだウルトラマンは生きている。
まだまだ人は人を好きになれる。
明日もう少し誰かを理解しようとするなら、うってつけの映画ではないでしょうか。
柴田龍

柴田龍