多次元世界の住人

シン・ウルトラマンの多次元世界の住人のネタバレレビュー・内容・結末

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ウルトラマンを文芸批評的に現代日本へ落とし込んだ作品と言えるのではないだろうか?

まず興味深いのはデザインと芸術表現。ネタバレを承知で記述するが、各怪獣の一新した形態は「おお!」と感嘆とした。ゼットンの圧倒的な太陽神的表現はあまりに美しすぎた(しかもボイスがそのままなのは最高に萌えた)。メフィラスもあれは面白い。カラータイマーどころの騒ぎじゃない。おもしろい。ザラブ星人もだいぶ大胆である。

そしてそれらを現代日本に落とし込んだこと。現代日本と言っても官僚的な枠組みという意味だが初期ウルトラマンが魅せたSFの空想的魅力をリアリズムな日本社会で表現したのは興味深かった。

さらに嬉しかったのはオマージュ。開始1秒のサウンドとウルトラQ・シンウルトラマンのサムネで「ぐわぁ」っと持っていかれた。メフィラスのフジ隊員巨大化のオマージュ含め新しいキャラクターや設定は出ずに、既存キャラの現代的解釈によってシンに表現したのは「あゝ」と懐かしさと新鮮さを呼び起こされた。とても良い。

先に文芸批評的と述べたが、構成要素に対して現代物理学(マルチバース、Dブレーンなど)を飛躍させた空想科学で巧みに解釈し、スペシウム133やプランクブレーンで説明を行う様子は空想科学の継承を思わせた。そして何よりゾフィーとリピアのやりとり、宇宙人とのやりとりは作品の文芸的解釈を思わせる。なぜなら初期ウルトラマンと同じ構成をしておりその構成は変えていないためだ。重要なのはそれを批評解釈したことである。ゾフィーの役割、なぜ怪獣が生まれたか、宇宙人の目的など初期作中で語られなかったことを堂々と語っている。これがシン解釈のウルトラマンであると強いメッセージを受け取った(最期のゾフィーとリピアのやりとりは見事だった)。

私が好きな批評家に井筒俊彦がいるが、彼を論じた若松さんの本へのレビューが非常に参考になる。

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 ボードレールの「優れた詩人こそ最上の批評家だ」という言葉を使って、若松は二人を結びつける。二人は詩を書いたわけではない。詩とは「存在の秘密を顕わにする魂の営み」であり、その営みを「人生の中心に据えながら生涯を終えた」からこそ、批評家は詩人であり、哲学者も詩人だった。

引用先: https://www.bookbang.jp/review/article/507459
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このボードレール的な批評の立場に立てばシンウルトラマンはまさに詩だ。

最期に私が感じたメッセージを書くとすると「じゃあ君たちはどうする?」ってことだと思う。

ウルトラマンの想定年代は少なくとも今日と同じである。ウルトラQのケムール人は2020年を舞台にしていると記憶しているが、冒頭はまさにQの沿線上であり、建物に変化もなかった。

今2020年を超えた現代。ウルトラマンが私達に与えた空想科学は何を果たしたのか。庵野秀明は現代的に解釈し直したことでそのメッセージを継承し再度訴えたように感じる。

まだ内容を消化しきれていないこと、難しい単語の羅列(空想SF的な表現で良いが、官僚の誇張は行き過ぎかと思った)の部分を加味して4.0とする。