『シン・ウルトラマン』2022
「そんなに人間が好きになったか、ウルトラマン」
映画の後6.7歳くらいの男の子がお父さんの手を繋いで劇場のトイレに歩いている「ウルトラマンたくさん出たね」「そだねー」とても楽しそうだ。
男の子にはこの映画の中のおじさん達がたくさん出てくる部分は今はまだ分からないかもしれないけど何年か経って見直すと「あーそういうことか」とさらに理解が深まるかもしれない。
自分達の為に外星人の大きな力を手に入れようとする政府の人間たち。
大きな力の前では人間には何の力もないんだと諦めさせようとする外星人。全てを任せてしまう人間。アメリカの前では何も判断できませんと諦めているどこかの国みたい。
大きな力の前に最初から諦めている日本人達は統治しやすい。あの男の子には諦めないで最後まで自分のできることを探す人になって欲しい。それが制作者達の願い。
ウルトラマンが地球に到着した際の衝撃波から子供を守る為身を挺した神永新二。彼の行為に何かを感じたウルトラマンは神永の肉体を借りる。
神永の肉体を借りたウルトラマンの言動は外星人らしいぎこちなさがある。ぎこちなさというよりアルカイックスマイルというべきか。オリジナルのハヤタ隊員は初めから人間しぐさが完璧だったけど。この斎藤工さんの「良い外星人らしさ」がとても良い。一方微笑みを浮かべたメフィラス(山本耕史)は全く信用できない。
ウルトラマンはガボラが放つ放射能光線を自らの肉体で吸収して放射能を無力化する。身体を張って私達を守ってくれる。その姿は平成版「ガメラ」のようだ。
しかし外星人のゾフィーから見れば人間は災いの元になる原始的種族。私達がペストを制圧する為に殺したネズミのような存在だ。だからウルトラマンは人間を理解する為に文化人類学者レヴィ=ストロースの「野生の思考」を読む。
地球は、地球人は、人間は宇宙に存在することを許されるのか?それともおとなしく滅びるべきなのか?
スケールが大きい問いを観客に投げかける作品でもある。
見事な特殊効果で蘇ったウルトラマンと禍威獣の闘いは見応えがある。
椅子などを手前に置く傾いたアングルは実相寺昭雄へのオマージュ。
オリジナルへのリスペクト溢れる21世紀のウルトラマンだった。実写版「サンダーバード」「ドラゴンボール」「デビルマン」などの様な惨状を心配している皆さん。全くそんな心配は入りません。ぜひ劇場へどうぞ。シュワッ(この映画ではウルトラマンはシュワッとは言わないけど)