サマセット7

シン・ウルトラマンのサマセット7のレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0
監督は平成ガメラ三部作の特撮監督、シンゴジラの特技監督を務めた樋口真嗣。
企画・脚本は、「シンゴジラ」「シンエヴァンゲリオン」の庵野秀明。
主演はテレビドラマ「最上の命医」、北大路欣也版「剣客商売」などの斎藤匠と、「世界の中心で愛を叫ぶ」「コンフィデンスマンJP」の長澤まさみ。

[あらすじ]
日本に禍威獣と呼称される巨大生物が襲来し、対策のため、禍特対なる組織が設立される。
7番目の禍威獣ネロンガの襲来中、禍特対の面前で、銀色の巨人が空から現れ、ネロンガを撃退する。
撃退後空に消えた銀色の巨人は、日本政府から、ウルトラマンと仮称されるが、第8の禍威獣の襲撃時再度ウルトラマンも現れ…。

[情報]
「シンゴジラ」「シンエヴァンゲリオン」に次いで、「シン」を冠する、庵野秀明が企画した映画群の、現時点での最新作。
公開5日目に劇場で鑑賞。

今作は、1966年にテレビ放送された特撮ドラマ「ウルトラマン」を現代を舞台にリブートした作品である。
原シリーズである円谷プロダクション制作の「ウルトラマン」は、全39話からなる。
毎回、個性豊かな怪獣や宇宙人が、日本に災厄や混乱を巻き起こし、これを科学特捜隊と、普段は秘密裏に科学特捜隊の一員の姿をしている巨大変身ヒーロー・ウルトラマンが解決する、というストーリーである。
当時は平均視聴率36%超となる人気番組であった。
その後シリーズは続き、再放送もされ、日本のみならず海外でも世代を超えて高い知名度を得ている。
ゴジラ、仮面ライダーと並ぶ、日本の特撮ものの代名詞的存在である。

企画・脚本の庵野秀明は、極まった特撮マニアであることが知られており、特にウルトラマンシリーズの熱烈なファンとして知られる。
代表作であるテレビアニメ「新世紀ヱヴァンゲリオン」においても、首都東京に繰り返される巨大生物の襲撃、巨大な人型の存在による時間制限のある迎撃、など、ウルトラマンの基本設定が踏襲されている。

監督の樋口真嗣に至っては、特撮マニア、というよりも、完全に「中の人」である。
何しろ代表作が、伝説的な平成ガメラ三部作。
こちらもウルトラマンシリーズを影響の受けた作品として公言している。

そんな2人がコンビを組んで、ウルトラマンを劇場版としてリブートする、というニュースは、特撮ファンを熱狂させた。

公開から時間が経っていないため、興収は不明だが、すでにシンゴジラの初週成績を抜いたとのニュースもあり、順調なようである。
私が見た限り、見た人の評価は割れている。

[見どころ]
詰め込まれた、ウルトラマンと特撮のネタの嵐!!
空想科学読本めいた、トンデモ設定を科学的に解釈する面白さ!!
キャスティングの妙!!特に山本耕史、最高!!!
シン・ゴジラ準拠の、現代日本に怪獣が現れたらどうなるか、という面白さと、高速台詞回し!
大人が全力で、真面目にウルトラマンをやるという、非常にシュールで奇怪な映像体験!!

[感想]
映画作品として、かなり変わった、奇怪な作品である。
明らかに批判を受けそうな部分も散見され、完璧な作品とは言い難い。
「シン・ゴジラ」と比較しても、相当歪な作品であることは間違いないだろう。

個人的には、とても楽しんだ。

正直、ウルトラマンシリーズについては、一般教養レベルの知識しかなかったが、特に障害とはならなかった。
その程度の知識でも、ニヤリとできる仕上がりになっている。
とはいえさすがに、ウルトラマンについて一切知識も興味もない、という人はキツイかもしれない。

おそらく、製作陣としては、今の時代の技術で、SF的に「誠実に」ウルトラマンをやるとすれば、こうなる、というのを見せたかったと想像される。
その狙いは、達成されていると思う。

いくつかのサプライズも仕掛けられており、最後はしっかり感動もさせられる。

問題を挙げるなら、大きく2点か。
一つは、原作の複数のエピソードを繋げるという脚本形式のため、一つ一つのエピソードに割ける尺が短く、かなり忙しないこと。
その結果、人間ドラマも性急になっている。

もう一つは、女性の描き方で、窃視的なカメラアングルや不必要な身体接触動作、果てはセクハラめいた不快な描写が散見される。
これは、シンエヴァにも見られた難点で、庵野監督の限界なのかもしれない。

キャストのオーバーアクトや説明的なセリフ、類型的なキャラクターなどもノイズになり得るが、すでにシンゴジラで慣れているからか、気にならなかった。
むしろ各キャラクターの掛け合いは楽しい。

CGに関しては、現代ハリウッドのそれではなく、66年の原作の特撮と比較すべきだろう。

全体としては、万人の支持は得られないだろうが、刺さる人にはブッ刺さる、カルト的怪作、という感じだろうか。

[テーマ考]
令和の技術でウルトラマンを現代日本に!!という制作面のテーマは当然として、物語的な今作のテーマは、宇宙レベルから見た人間存在の卑小さにあろう。
人間が、巨大な宇宙から見て、いかに弱く、短命で、ちっぽけな存在か、という点は、作中何度も言及される。

その上で、そんな弱く小さな取るに足らない人間は、どう生きるべきなのか。
今作は一つの回答を示す。

[まとめ]
大人が真剣にウルトラマンを現代日本にリブートさせて見せた、マニア心溢れる特撮SFの怪作。

次の「シン」作品は、「シン仮面ライダー」。
ほぼ思い入れも知識もないが、庵野・樋口コンビがどういう切り口で勝負するつもりか、見届けるためだけに観てしまいそうだ。