踝踵

シン・ウルトラマンの踝踵のネタバレレビュー・内容・結末

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

「リアリティを突き詰めたウルトラマン」自体は、一つの回答として新世紀エヴァンゲリオンがあると勝手に思っているが、シン・ウルトラマンはよりプリミティブな印象を受けた。
何故なら「死を直面した時に生を渇望する」という台詞であったり、美しい木漏れ日が差し込む松林の中で人類の尊さを語る神永(ウルトラマン)など「研ぎ澄まされた根源的な美しさ」が凄く印象的だったからである。どう言語化していいか分からないが、すごく美しい。

シン・ゴジラとの共通点で言えば「統率の取れた組織の機能美」を庵野秀明流の描写力で味わえる。また、人類に挑戦状を送りつける風習は今作も健在。今回はより象徴的に人類の非力さを描写するので、ウルトラマンからの挑戦状に胸が熱くなる。テレビ版ウルトラマンでの対ゼットン戦では、ウルトラマンと人類の関係は前任と後任、みたいなドライな関係だったが、今作はF1レーサーとメカニックのような二人三脚的な関係でテンション上がる。奮い立たされるタイプの涙が出る。

また、シン・ウルトラマンでは「そもそもウルトラマンは宇宙人であり、人智を超えた神のような存在である」というコンシャスなコンセプトを突き詰めて再解釈した庵野秀明流のド直球のウルトラマンを観ることができる。

例えばカラータイマー。
予告の時点でカラータイマーを描写しない覚悟にテンションは上がりっぱなし。決してカラータイマーのデザインを否定しているわけでは無く、成田亨さんの原画へのリスペクトを感じ取って感極まっているだけ。
今やウルトラマンは世界でも認知されるポップアイコンだと思うが、カラータイマーが認知向上に貢献したことは言うまでもない。しかしこれは諸刃の剣のようであり、「地球では3分しか戦えない」というテレビ都合の優れたデザインでありつつも元々の宇宙人の設定がブレる悪いデザインでもある。商業的には最高のデザイン、でも「そもそも論」を始めると不要のもの。

また、例えば体格。
テレビ版のウルトラマンはスーツアクターが入っているのでややムチッとしたレスラーみたいなウルトラマンだが、シン・ウルトラマンは胸板がぺったんこのヒョロガリ体型だと思う。こういう造形もまた「ウルトラマンはあくまで宇宙人であって、もしかしたらヒーローじゃなかったかもしれない」という作り手の強い意志を感じさせる。

予備動作ゼロで飛び立つ唐突さも不気味ながらも宇宙人感を演出してて最高だった。今やウルトラマンガイアなど土煙を立たせて着地する手法がメジャーだが、今作は未知の脅威感があって良かった。また、テレビ版ウルトラマンの、特撮技術のまだ精度の低い要素を今作では説得力に転換させている箇所かいくつかあって興味深かった。


-その他書きたい事-

知的な宇宙人がウルトラマンを活用して人類を滅ぼそうとするプロットもスケールが大きめに描かれていて、変身しない人達の間にも駆け引きの緊張感が描写されていて面白かった。あとはメフィラス星人の新デザインは結構カッコよくてツボだった。全体を通しても言えるが、メフィラス星人が愛でる地球の姿が懐かしくも美しくて愛着がわいた。

主役を斎藤工に抜擢したのは名采配だと感じた。すごく象徴的な「人類」って感じの人で今回の作風には他に適任が思い当たらない。
山本耕史も凄すぎた、この宇宙人ならサイコパスでも隷属しちゃおうかなって思ってしまう。

庵野秀明の作家性はいつも通り発揮されており、ミクロとマクロのどの視点でもディティールに富んだユニークな画面を作っており、少なくとも飽きはしない。くどいと感じる人もいるかもしれないが、「今セリフを言っているキャラクター」を映すための最小限の努力で表現したユニークな手法だなと私は思った。

満点にしなかったのは巨大な長澤まさみがちょっとシュールすぎたからである。
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