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シン・ウルトラマンのbackpackerのレビュー・感想・評価

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
3.0
『ドント・ルック・アップ』……。

平成生まれのワタクシは、ウルトラマンでいえば所謂平成三部作あたりの世代。ただ、リアルタイム視聴したウルトラマンは『ウルトラマンコスモス』のみ。
昭和シリーズは、マンとセブンは全話、帰りマンからレオまでは歯抜けで、近所のTUTAYAでビデオをレンタルし見ていました。不思議なことに、リアタイ視聴よりもレンタル視聴した昭和シリーズの方が、克明に記憶されているんですよね。
そんなにわかファンな身でも、「おおっ!!」と思わず立ち上がってしまいそうなシーンが随所にちりばめられていたため、非常に楽しめる作品でした。
と同時に、初代マンの現代版リメイクである本作は、当時見ていた年齢層やオタクが喜ぶネタをアレコレぶち込んで作った作品としては面白いながらも、上質なファンムービーの域を超えていなかったようにも感じます。


散々議論の場に上がった長澤まさみ問題における「誰に向けて」「なんのために」「どんな意図で」作っているのか判然としないシーンが幾度も織り込まれる点は、本作の明確なノイズとなっており、魅力を損なうものであったのは間違いありません。
それが作品を台無しにする致命傷であったとは思いませんし、ポリティカル・コレクトネスの見地から良くないと断罪するほどであったかもわかりませんが、違和感は十分すぎるほど感じました。
「浅見分析官は実写版ミサトさんとしてのキャラクター付けがなされている」という意見を見聞きした際、"サバサバして色っぽく気っ風の良いお姉さん"という、実にアニメ的カリカチュアライズされた存在をそのまま実写映画に直輸入した為生じた不協和音には、キャラクターの罪というよりも、クリエイターのエゴによる失策であったのだと、妙に納得をしてしまいました。
要は、「誰が嬉しいんだこれ?」という表現への疑問。これが脳裏をよぎる。その点が残念でならない、ということです。

また、全39話の『ウルトラマン』を約110分の映画作品にまとめ上げるとなると、やはりダイジェスト感は否めません。
「コロナ禍の2020~2021年の間に、実は深夜枠で放映されていたものの、総集編」と言われれば、非常に納得できます。空想特撮ドラマシリーズとして、やってほしいですね。


色々と面白いところや不満なところがありますが、結局本作に対しては、「『シン・ゴジラ』1本だけならよかったけど、また同じような戦いを見せられてもな……」というのが個人的最大の不満点。
要するに、怪獣がもたらす厄災と対抗する過程での市外戦により、人が死に街が破壊される様を見たかったんだ、ということです。
樋口真嗣監督のフィルモグラフィーに燦然と輝く平成ガメラ三部作、特に『ガメラ2レギオン襲来』に思い入れのある身としては、下から煽る撮影や、都市の大破壊、死んでいく民間人、奮闘する自衛隊、といった姿が見たかったですね。
特に残念なのは、自衛隊描写について。『シン・ゴジラ』では、自衛隊の活躍はそれなりに描かれていましたが、本作の自衛隊は謎の少数精鋭"禍特対"に現場指揮能力をサラッと奪われ、その後は殆ど出番なし。ましてや、実際の戦闘行動は米軍がやっているとあっては、存在しないも同然の扱いです。
単純に疑問なのですが、冒頭のウルトラQパートでも、「禍特対に称賛の声」とかいう表現が出てましたが、こいつら前線で何か仕事してますかね?
調査分析とのことで、透明になる意味は~だの電気を食ってるのか⁉︎だのを、あーでもないこーでもないとお話ししてましたが、実務は自衛隊員が行ってるわけですし。「法令に基づく対応の許可に係る電話番」がせいぜいでしたよね。一体こいつらのどこをどう称賛すりゃいいんだ???


とはいえ、面白おかしく楽しませてもらったのは間違いないわけで、賛否両論渦巻く本作に、まんまと踊らされてしまったような感覚ですね。
三部作構想との話が出ていますが、果たしてこの後どうなることやら……。
とりあえず、ゼットン問題を対外公表せず、民草は安穏と死んでいけばよいという為政者のお考えには、感情が揺さぶられましたよ。ホントに。
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