春とヒコーキ土岡哲朗

シン・ウルトラマンの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

一見無機質にアレンジされた、やっぱり希望のヒーロー。

怪獣対ウルトラマン。
ウルトラマンの映画と聞いて怪獣とのバトルシーンを期待するが、ヒューマンドラマ、政治ドラマもある。そのドラマ要素に行く前に、早めに2連戦してたっぷりウルトラマン対怪獣のアクションは楽しませてくれる。それで満足して別のものが欲しくなったあたりで、ドラマが始まる。その後も節目節目で宇宙人とのバトルシーンがある、という構成。『シン・ゴジラ』は政治ドラマに振り切って、そこにゴジラがようやく登場だったが、それとは違う良さ。満足したから、大人しくストレスなくドラマを見られる。
直立のまま回転するウルトラマンの姿は、人形をそのまま回しているよう。「今はCGでもっと違和感なく表現できるのに、あえてやってるんだろうな」と、ちょっと没入ではなく俯瞰になってしまう瞬間ではあった。でも、作り手が自分が見て惹かれた特撮らしさを再現したいんだなと思うと良いものだ。

『シン・ゴジラ』の続き?
第4の使徒から始まるエヴァンゲリオンと同じく、既に何匹もの怪獣が出現しているところから始まる。現代社会にもし怪獣が現れたらというのを『シン・ゴジラ』で我々に見せて、そのつづきから始めている。さらに、ダイジェストで見せられる既に出現した怪獣の一体目がゴジラに似ているのもあり、やはり「『シン・ゴジラ』でゴジラ以後も怪獣が現れた世界」という気分で見ていいんだろうな。

『シン・ゴジラ』が災害への対応の政治的ドラマだったが、今回は「外交」の話。ウルトラマンやザラブ星人、メフィラスと言った宇宙人との関わり方を日本政府が戦略的にやろうとする。ザラブが現れて、諸外国より先に宇宙人とのつながりを持とうと息巻く姿は、怪獣に襲われる危機よりも政治を優先していて浅ましい。そして、ザラブにまんまと騙される。このあたりは、ザラブの作戦と、それをなんとか打開するウルトラマンの作戦、スパイ映画の面白さもあった。

人間こそ超人と信じる。
ゼットンにウルトラマンが負けたとき、政府はどうせ助からないなら市民には何も知らせず、平穏に終わりを迎えるのが幸せだと判断し、何も公表しない。諦めの幸せ。真実を知る禍特対の滝は、人間が何もできないことに自暴自棄になりかける。しかし、ウルトラマンが残したメッセージから世界中の科学者たちと連携し、ゼットン打倒の方法を導き出す。
世の中には人間には太刀打ちできないものがあるが、それでも立ち向かえる力だって人間は持っている。少なくとも、この映画の作り手たちはそう信じている。
自分よりも体の持ち主である神永を救ってくれと頼んだウルトラマンに、ゾーフィは「そんなに人間が好きになったのか」と驚く。ウルトラマンが、人間を見捨てずに唯一無二の存在として愛してくれたのだから、我々も人間を見限らず、諦めず、信じよう。