YasujiOshiba

1917 命をかけた伝令のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
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U次。23-139。なぎちゃんとキャッチアップ。これは二人で見るのが楽しかった。どこが不可視カット(invisibile cut)か、ワイワイやっていたんだけど、そのうち二人とも映像に引き込まれていってしまった。

明らかなカットはドイツの狙撃兵とやりあって失神するところ。だとすれば全編2カット。その効果は抜群。ぼくらは第一次世界大戦の塹壕戦に引き込まれ、くつろぎのなかで、その愚かさと愚かさに生きる者に共感させられてゆく。

なにしろロジャー・ディーキンスのカメラがよい。コーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)、『ビッグ・リボウスキ』(1988)、『バーバー』(2001)、『ノー・カントリー』(2007)なんかは全部この人のカメラ。さらにはビルヌーヴの『ボーダーライン』(2015)、『ブレードランナー 2049 』(2017)などもこの人。好きな監督の好きな作品ばっかりじゃん。

さて、映画の元になったのは、監督のサム・メンデスのおじいさん(Alfred H. Mendes 1897-1991)から聞いた話で、本人が伝令を届けた時のことらしい。最後にきちんと名前が出てくるけれど、実のところ戦争の話は70歳になるまでしたことがなかったのだという。それほどのトラウマになっていたのだろう。そのトラウマをなぞるようなシーンもいくつかある。(https://www.imdb.com/title/tt8579674/trivia/?ref_=tt_trv_trv)

勇ましい戦争映画ではなく、その愚かさを疑似体験させてくれる映像なのだけれど、マッケンジー中佐/ベネディクト・カンバーバッチのセリフが印象に残る。第一派を送り出したところで、中止の指令を受けるのだけど、第二波の派遣を中止してからこんな言葉を吐く。

「わたしの希望は今日がよき日になることだった。希望とは危険なものだ。今日はこうなったが、また来週がある。司令部はまた別の指令をよこすだろう。夜明けの攻撃だ。この戦争が終わり方はひとつ。最後にひとりだけ残ることだ」
(I hoped today might be a good day. Hope is a dangerous thing. That's it for now, then next week, Command will send a different message. Attack at dawn. There is only one way this war ends. Last man standing.)

このあと亡くなった友人の兄に会い、冒頭のシーンを反復しながら、美しい野原の一本の木のもとで目を閉じる。ぼくらにとってはそれが夢の終わり。けれどもメンデスの祖父は、次に目を開けるときまた冒頭に戻り、悪夢を繰り返していたのだ。

たしかに「希望」(hope)は危険なのだ。それは罠。ネイションステートという大きな希望はとりわけ危ない。その希望をもって人は愚かにも、ネーションを共する者として死んでゆき、ネーションを別にする者たちを死なせてゆく。「希望」とは災いの兆し、そんなパンドラの箱の警告は、いつだって忘れられ、ただ後の祭りとして記憶されるほかないのだろうか。
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