田山信行

1917 命をかけた伝令の田山信行のレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
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計算した上でシームレスな映像を作り込んでいるので実際にカメラを回しっぱなしで撮影するワンカットとは技術的なことを抜きにしても単純に映像の体感として全く異なるものに感じた。

完全なリアルタイム進行ではないのも明らか。こちらが違和感を感じない程度に上手く時間も摘まれている。

カット割や編集で時間も場所も超越していくように物語を紡いでいく従来の映画とは異なり、主人公が一歩一歩と踏みしめた先ごとに見えていく景色が物語を醸成していく。爆音のする方に目を向けたり迫りくる敵の姿に目を凝らしたり。主人公のアクションはシームレスな映像ゆえに観客である私たちが実際にとるアクションのリズムと同じなので没入感が高く感じる。これが従来通りの映画ならば展開が冗長に感じるんだろうなあと思う。

戦場の緊迫感に満ちたシーンだけではなくゆっくりと時間が流れているようなシーンもあるが突発的に何が起こるか分からないのもカットが割られずに断続的に紡がれ続ける映像ならではの感覚であって決してダレない。

ロジャー・ディーキンス撮影による美しい映像。カメラを回しっぱなしの実際のワンカット撮影ではここまで計算された画を撮れまい。カメラの揺れなど多少のハプニングも許容した上で得る臨場感とは全く違う。とにかく美麗な映像をワンカット風にカット割も編集もなく余すとこなく体感できる新しい感覚。撮影機器の進化やデジタルの恩恵による全く新しい映像の構築であってコレは擬似ワンカット撮影なんて偽物臭いズル臭い呼称ではなく何か新しい呼称が必要なのではないのかなと。

予告編やCMなどでよく見るカットが本編観てみるとここのカットかい!って思ったんだけど全編通してみてまぁ確かに分かりやすいキラーカットってあそこぐらいかと思ったので大迫力の戦場アクションって期待すると肩透かしなのかも。

もちろん没入感高く見入っている上で迫力のあるシーンもちゃんとあるけどそこだけに留まらずに映像自体が物語を紡いでいる情緒的な豊かさが凄く心に残る映画だった。
田山信行

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