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1917 命をかけた伝令のtorakoaのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.5
事前情報一切なしで鑑賞。延々長回しで主人公達に追随していくカメラが凄い。雑に言うと前半は敵軍が撤退したらしき元前線を主人公達が移動していくだけで、緊迫感はありながらどこか弛緩した感じで観られる状況なのだが、この見せ方で引き込まれ続ける。
でまたこのカメラが安定している。しまくっている、と言っても過言ではないだろう。ずっと移動し続けてるが無駄な揺れはほぼ皆無。ベスポジ探してまごついたりハイここでズームしてみましたとか戻してみましたとかピンボケ直してますとか、あからさまで気になる挙動もなく(たまに見かけるんだよなー引き合いに出すことすら失礼か)一切迷いがない感じで非常にスムーズに動いていく。綿密な計画に沿って一丸となって撮影したのだろうか。そういう、撮影にかける意気込みがいい意味で緊張感として観客に伝わってくるゆえに引き込まれ続けるのではないだろうか。などと思いながら眺めていたら一時間ぐらい経過してた。

戦争映画が苦手ゆえなかなか食指が動かなかったが、ドンパチは中盤までほとんどなく、宴の残骸のような戦場を移動していくことで苛酷さ虚しさ人の尊厳について感じさせる、どちらかというと静、珍しい見せ方の作品だと思った。戦争映画が苦手という理由でなら敬遠しなくていいと思う。ドンパチアクションを望む人は肩透かしかもしれないが。

音楽も前半は音量控えめでほぼ黒子に徹してた印象。楽しい、悲しい、勇壮、等々の印象を伴う音楽を使って観客の感情を操作しようとしてくる押し付けがましいアナクロなハリウッド方式が私は苦手なのだが、この作品の音楽は何と言うか全体的に曲調が割とニュートラルな感じ。明確すぎるベクトルは存在せず主張が強くない。様々なものが綯交ぜになっていて色んな感情に当てはまるようでいながらどれでもないような音楽ゆえに刺さってくるように思う。

ゲームオブスローンズのスターク家長男・リチャード・マッデンのエモーショナルな演技がとてもよかったし、カメラから遠くなっていくとこでもグッときてたし、鼻の奥にツンと込み上げてくるまでの感情ではなかったが静かに涙腺が緩んでいた。主人公の旅路を思い返す時、自身の体験の追想のような気分になっていたようにも思う。そういう作品。
物語として物足りない気も今一つな気もしないではないが、それがどうした、という気持ちのほうが強い。

『フィッシャーマンズソング』『シンクロダンディーズ』のダニエル・メイズさん、『マイビューティフルガーデン』『パレードへようこそ』のアンドリュー・スコットさん等々英国俳優で固めてるんだな。アンドリュー・スコットさんよかったと思う。サム・ロックウェルがやりそうな役だなとちょっと思ってしまったが、彼独自と思われる味わいがあった。皆さんよかったが最も印象に残った演技はリチャード・マッデンだなー。良さを発揮しきれる作品に巡り会えれば一気に評価上がる人かもしれない。

BD特典にメイキング、監督コメンタリーと撮影ロジャー・ディーキンスによるコメンタリーがある(レンタルBD)。“ワンカット映画”は誰かが作った言葉で、監督は“ノーカット映画”という認識らしい。なるほど。凄いことをしてる割に衒いがない感じはそういうとこから来てるのかもなー。
リチャード・マッデンの件のシーンは本番1テイク目らしい。
ゲーム・オブ・スローンズのサーセイ次男の人はぽちゃっとしたなあと思っていたが、インタではよりぽちゃっとしていたような。
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