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おもかげのslowのネタバレレビュー・内容・結末

おもかげ(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ここに投稿されているいくつかのレビューを読ませてもらって、エレナがどうかしてるから感情移入できないなど、彼女に対して厳しい方が多いなという印象を受けた。低評価の意見として多かったのが、年の差ありすぎとか、エレナではなく相手の親に感情移入してしまうとか、そして、そもそもエレナの性格が嫌い、行動が理解できない等々。自分は冒頭の短編シーンを観ている以上、そのようには思えなかったし、10年の間に何があったのかは細かく説明する必要もないと思えた。大きな意味で何も変わらなかった。時が止まってしまった。それは服装などにも表れていたと思うし、その見た目と年齢と感情のギャップに、周囲は彼女に違和感を持ち変人扱いしていたのだろう(月日が事情だけを置き去りにして)。その周囲の人々と同じ見方をしてしまっては、本作の表層は読み取れても深層は読み取れない(まさに彼女の置かれた状況という意味では間違いではないのかもしれない)。中盤辺りだったか、気持ちの高ぶったエレナがクラブで羽目を外すシーン。凍結していた心が一度溶け始めると、それは恐ろしいほどのスピードで彼女に現実を突き付ける。あのジャンの兄らとの一連のやりとりは痛々しくもあり、剥離したエレナの心身が距離を縮めた大事なシーンでもあったのだろう(兄のクズっぷりはもちろん、典型的なブルジョワだと言っていたあの家族もやっぱり少し変でしょう)。色々な映画のレビューを読んでいると、不倫や浮気など倫理に反するものを描いた映画への嫌悪や批判は目立つのに(昨今はもっと広範囲でしょうし)、殺人なんかにはほとんど文句がつかないことが昔から不思議だったのだけれど、彼女の苦しみがこうやって殺人よりも重い罪のように言われることに全く納得がいかなかった。しかし、彼女の行動や考えが全て間違いではないと肯定したいわけではなくて、あくまで彼女を軸にした映画として自分は寄り添って鑑賞したということ。だから少し擁護したくなってしまった。これを傑作だとは思わない。でも、きっと忘れられていくものと、ずっと忘れられなかったものが、時を反転させて迎合するあのラストには、スッキリともモヤモヤとも違う不思議な感情が湧き立ち、なんとも言えない気持ちになったし、映像や音楽も素晴らしく申し分なく、個人的には大変見応えのある作品だったなという感想に至った。
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