あき

異端の鳥のあきのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
3.5
第二次大戦時の東ヨーロッパで、ホロコーストから逃れるために疎開していた少年が我が家へ帰るまでを描いた作品。
ポーランドで発禁となった同名小説(1965)の映画化。
全編モノクロなのだがそれを無意識に忘れるほど冒頭からあまりに極彩的で衝撃的。
少年はユダヤ人であるために訪れるどの村でも迫害され、
たかだか10才前後のあどけない子どもに、大人がこれほど容赦なく酷いことができることが戦時の狂気だとしても、
理解を気持ちが拒絶し目を背けたくなり吐き気をもよおすシーンが3時間近く延々と終わることなく続く。
その一方で背景は常に美しい田園風景であるそのアンバランスさがまた観ている側の心の均衡を揺るがす。
途中、ポスターにある、頭だけ残して土の中に埋められるシーンは、”西太后”(1984,中国)の有名なトラウマなワンシーンを思い出して苦しくなった。
またこの映画は、あえて舞台の特定を避けるために史上初めて全編人工言語が用いられたことが特記されるが、
戦時中、日本も満洲国でエスペラント(人工言語)を推し進めたけど、民族の固有の文化の否定という、虐待や拷問といった身体的な屈辱とは別の精神的な屈辱を強いられているようでそれも辛かった。
ラストで父親とやっと再開できたものの自分を一度は捨てた親に対して怒りしかなかった少年が、ふとしたことから親は親で自分の知らないところで地獄を見てきたことに気づき全てを赦すかのようなラストに、最後の最後で救われる。
でももう1回観たいかと聞かれたら、うなずく勇気はない。
けどこの映画は今映画館観に行かねば一生出会えない作品。一見の価値はある。
あき

あき