いずみたつや

異端の鳥のいずみたつやのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.4
監督はこの作品のテンポを「流れる川の速度に設定している」と言います。

観客はまさにその”川の流れ”にただ身を任せ、嫌というほどにじっくりと、少年とともに地獄の舟旅をすることになります。

それは暴力、迫害、虐殺、差別、貧困の歴史を煮詰めたような苦悶の旅。酸鼻をきわめる光景のどれもが現在進行中のものに見えることが恐ろしく、また陰鬱とした気分にさせられます。

少年は各地で物のように扱われ、蔑まれ、理不尽な暴力をふるわれます。何度も何度も。

鳥飼いの男が自死を図った時に助けようとする姿が痛々しい。たいして良い扱いをしてもらったわけでもないのに、ほんのわずかな人の温もりにすがるように抱きつく少年の極限の心境を思うと、言葉になりません。

しかし、映画はこちらの「もうやめてあげて」という希望にはまったく応えず、少年をさらに追い詰めていきます。

そんな地獄の旅を経て、彼の心がいったいどうなってしまったのかは最後の最後に示されます…。

「名のある個人」であることは、誰にも絶対に奪えない人間の尊厳なのだと感じました。