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異端の鳥のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

第二次大戦中の東欧のどこか。子供は一緒に暮らしていた祖母を失い、家を失い、両親を求めて旅に出るも、その旅路は正に地獄めぐり。極寒の中、戦火に生きる人々からの強烈な悪意(*)にさらされることとなり、時に自由を奪われ、尊厳を失い、言葉を、そして次第に心まで失っていく。最後は父と共にバスに乗って母の元へ帰る場面で幕となるが、窓ガラスに指で書いた自分の名前が、そして家に戻るということが、微かな人間性の回復として描かれていたように思う。

(*) 具体的には、悪魔の手先だと袋叩きに遭い、地面に埋められカラスに頭をついばまれ、吊るされ、鞭で打たれ、レイプされ、肥溜めに落とされ、氷の湖に落ちて、大人の情事を行うことができず役立たずだと罵られた挙句にヤギとの獣姦を見せつけられたりする。

原題のPainted Birdはペンキを付けて放した鳥が、仲間の鳥の餌食となって命を失うあの場面から取られているものと思うが、それは同じ人間から搾取や殺戮の対象とされたユダヤ人、そしてユダヤ人であり戦争孤児であるあの子の姿だ。しかし、ユダヤ人ではない自分からしてみても、集団が個人へと襲いかかる物語として決して無縁な話ではなかった。

動物を愛したやさしい子が、自分が受けた拷問を再現するかのように山羊を吊し上げ、クビを切り落とすまでになる。人間の死体が大量に吊るされているのを見てほくそ笑むようにまでになってしまう。このあたりは教育論として観ることもできるあたりで、純真な瞳に次第に暗い闇の炎が灯るのを見ることもできる。

プライベートライアンで狙撃手ジャクソンを演じたバリー•ペッパーが今回はロシア人狙撃手を演じていて、クールで良いやつなのだが、目には眼を歯には歯をと教えて銃まで渡してしまうものだから、渡された方は使ってしまうだろう。大人の都合で子供がダークサイドに堕ちていってしまうのは、何もこうした戦争状況下においてだけではないのだが、悲しいものがある。
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