シネマスナイパーF

異端の鳥のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
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日本ではR-15ということですので、15歳からなら観せていいんだな?????
不快な描写が詰め込まれているので無理強いは出来ませんが、高校生以上の方々には是非観ていただきたいなぁ
戦争とホロコーストどころではなく、差別すらも超えた本質に迫ってるよ

手始めに、動物以上に残忍な存在としての人間を見せつけ
他者への恐れで凶暴になる人間を見せつけ
人間の情欲の気味悪さ、罪深さを見せつけ
本当に、ありとあらゆる醜さを見せつけてくる
ゴア的な意味だけではなく、醜悪という意味で非常にグロテスクな映画
しかし、台詞が非常に少なく、画の力でものを言う様は映画の姿勢としてあまりにも美しく、フィルム撮影のパワーはもちろんのこと、多様性などではなくより人間の本質的な部分を突いたこの映画が白黒であることには強い意志を感じる
独白や心情説明は当然無く、主人公の少年は途中から喋らなくなってしまうし、この映画において、言葉というものは非常に信用ならないものとして描かれている
雄大な自然の中ポツンと映る少年の姿は何度見ても哀しい
人間の闇を描く以上、闇を際立たせなければいけない
白黒にしたことで、少年が闇に消えていく数々のシーンが際立つ


本人はそう明言していたわけでもなかったがゆえに原作者の自伝と思われていたが実は作り話だったということで大きなバッシングを受け、結局自殺まで追い込まれてしまったという小説が元ということですが、中身が嘘か本当かなんて正直そこまで重要な事じゃないんですよ
この物語は事実ではないかもしれないけど、まぎれもなく真実ではあるんだから

異端者に牙をむくのは恐いからで、恐れは本能的な行動、動物的な行動を呼び起こす
じゃあ理性を働かせたらどうなるのかというと、理性、知性を盾に本能を正当化する…これが一番タチ悪いというか恐ろしい
人類の歴史ですよ
嫌な奴らを効率よく消すことに頭を使い、支配する中で本能を満足させていく
それが真実であり、それらに対抗するための手段もまた暴力しかなく、それを悟っていくに連れ、少年の顔つきが変わっていってしまう哀しみ
この顔の変化だけで映画化した価値大ありです
裏切られ続けた彼は、もう愛すら信じていない
動物にはずっと優しくし続けていた彼が、あんな行動に出てしまうのだから…
ただ、劇中僅かに見ることのできる、大人から少年への人情が、所謂分かりやすい愛ではなく、哀しきひとりの少年に対する倫理的な情だということ、これは却ってハッキリと人間の美徳として映るし、少年を逃がす場面は、特に理由は語らず、首の動きと「行け」だけでこんなにも心が熱くなるのかと…
エンディングテーマは、歌詞が分からずとも充分余韻に浸らせてくれますが、歌詞を知ると、ラストのパワーも追って知ることになる

最大の誠意と敬意を持って"映画化"したんだと思う
原作が少年の渡り歩く国を名指ししていないことに加えて、映画では劇中話される言語も、多くのスラヴ語圏で話されている人工言語を採用しているそうで、特定の場所の特有の問題ではない恐ろしさを語るこの残酷な物語に対するこれ以上ない素晴らしいアプローチだと思いました


細かい描写は、映像でダイレクトに見せられることで相当キツいものになっています
ポスターの首とカラスのシーンは想像通り怖いし、観た人ならわかる、山羊の下でクネクネしているあのシーン…ドン引き
それでもかなり配慮したバランスにはなってる…のかな
監督が仰っておりますが、確実にショックを与えつつも、これ以上観せるとキツすぎる手前で切っているつもりとのこと
狙いかどうかは分かりませんが、鮮血イメージが白黒で緩和されている気もする
目玉を返してあげるのはちょっと描写としてやりすぎだった気がするけども、これはこれで、目を背けたくなるような全ての出来事を少年が体験しそして目撃してしまうこと、奪われたものを戻してあげる行為がある一方で奪うために与える行為もあるという残酷な現実を際立たせているから必要だったのかな


非常に映画として、強い
強すぎる
圧倒的な映画
映画館で圧倒されてください