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マリッジ・ストーリーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.0
『フランシス・ハ』のようにテンポの良い人物紹介(編集が同じ人だから)から始まるくせして、互いを思いながら離婚の泥沼地獄へ突き進む地獄の映画。アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソンの双方にカイロ・レンとナターシャ・ロマノフの面影はないし、ちらりとも連想させないのは二人の芸達者さを表しているのだろう。前半はコミカルなすれ違いやコンテンツ盛りまくりな義母のおかげで実に軽妙で、一瞬二人の夫婦が離婚の縁にあることすら忘れてしまうほどだ。

冒頭の紹介文が全編に渡って細かくそして然り気無く登場する演出も非常に上手い。ハード面での描写、チャーリーの気配りやニコールの子供への思いなどは常々描かれているのだが、思いの外ソフト面、例えば、ニコールは"家族の問題では敵わない、上手に和解へ促してくる"といった発言の描き方も傑出していた。基本的には人物の動きを見て我々が人物の性格を判断するため、実際に説明されると興醒めすることが多いのだが、本作品においては性格や生活の説明から実際の人物に移るのが実にシームレスにリンクしているため、まるで昔から見知っているかのような親しみが湧いてくる。

この手の映画は主張がどちらかに偏っていることも多く、今や離婚映画の代名詞とも言える『別離』でも物語の中心は旦那だった。しかし、本作品では夫婦を全く平等に描いている。ロスで暮らしたいニコールとニューヨークで舞台を続けたいチャーリーのこれまでを、フラッシュバックを一度も使わずに、一つの事実の正の面と負の面を提示しているのだ。フラッシュバックを使わないのは、発言の趣旨の答え合わせがしたいわけでも、センチに流してどちらかの味方になって相手をやっつけようとする訳でもないからで、映画は夫婦が友情を築いてきた時間が確かにあったことを想像させたかったのだろうし、そもそも"マリッジ"時代の良し悪しを我々が判断する必要もないだろう。

反面、演出家による演者の搾取も描いてる。チャーリーにはマッカーサー基金が、ニコールにはテレビの主演女優が与えられるというエピソードが裏打ちするように、二人の才能は折り紙つきで、だからこそ劇団のブロードウェイ進出までに至るステップアップはどちらか片方ではなく両方のおかげと言うしかないだろう。それなのに、ロスの人々はニコールに"旦那さんの舞台が凄かった"といい、そこにニコールは全く登場しない。互いに互いを搾取したつもりはなかったが、世間一般なイメージからすると演出家の方が強いのだ。ニコールが弁護士を雇うことをやむなしと決断したのは序盤のこのシーンに端を発しているように思える。
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