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ホモ・サピエンスの涙のhasseのレビュー・感想・評価

ホモ・サピエンスの涙(2019年製作の映画)
4.0
演出4
演技3
脚本4
撮影5
音楽4
技術5
好み3
インスピレーション4

シャガールの傑作絵画『街の上で』をオマージュした、廃墟と化した街を、はるか上空に浮遊した男女が見下ろすというシーンが最高。ほかのワンシーン・ワンカットも画として一分の狂いもないキマリ具合なんだが、あのシーンは今後忘れることがないだろう。しかも、目に見えない程度の点だったのが徐々にアップになっていくのもメチャクチャ拘って作ってる。
他のシーンでも、画面の隅の奥の小さな窓に映る人間の動く様子とか、遠い空の鳥の群れとか、普通の映画だと背景の一部、ですらない点レベルの存在までコントロールして画面を作り上げようとしているのが、凄い。なぜここまで拘るんだろうか? ロイ・アンダーソンの映画が絵画的と言われる理由の一端はこういうところにあるのか。

シャガールの『街の上で』で男女が浮遊してる理由は、①恋の喜びの浮遊感の表現と、②街に対する心理的・地理的距離感(描かれる街はシャガールが育ったビテノブスクであり、ナチスによって彼は住んでいたユダヤ人地区を追い出された)だと思っているが、本作にも②は当てはまりそうな気がする。はるか上空から市井の悩みや絶望を淡々と「実況」しながら、そこには冷たさよりも愛に近いものを感じる。その、なんとも言えない距離感。

「ある個人と街/町の関係性」をテーマにした映画は面白い。コッチェフ監督『ランボー』『荒野の千鳥足』、ジャック・タチしかり。小説だと多和田葉子の「通り」シリーズとか。「個人と村」だと色々やりつくされてる感はあるが、「個人と街/町」は、街/町が村に比べて時代とともに急速に変化を遂げており、まだまだ可能性を秘めている。
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