寝木裕和

歌うつぐみがおりましたの寝木裕和のレビュー・感想・評価

歌うつぐみがおりました(1970年製作の映画)
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主役のギアを含め、登場人物の何人かのシャツがズボンからはみ出す具合のだらしなさが気になった。

その、だらしなさが、すべての人間が本質的に持っている不完全さを象徴しているようで。

時にだらしなく、不完全で、統一性も整合性も無くなってしまうのもまた人間というものの一面。

それでもそんな市井の人たちが、なんの気なしに発した歌声が、いつのまにかハーモニーとなり、得も言われぬ美しさを持った響となる。

そう、まるでこの作品の中でギアたちが心地よいポリフォニーを歌い出すシーンのような。

世界中のどこにでもある、ごく普通の庶民の暮らしの中の悲喜交々を、哀しみはペシミズムを過度に感じさせることなく、喜びは涙を流すほどの大それたものではなく、イオセリアーニ監督なりの暖かい眼差しを通して描かれた秀作だ。
寝木裕和

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