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ラスト・クリスマスのカポERRORのレビュー・感想・評価

ラスト・クリスマス(2019年製作の映画)
4.2
ハロウィンが終わり、街には早くもクリスマスの装飾がちらほら。
そんなこれからのXmasシーズンに、是非鑑賞をオススメしたいのが本作『ラスト・クリスマス』である。
何故か、巷の評価はそれほど高くない作品だが、私はXmas映画の中でダントツに好きだ。
『世界一キライなあなたに』の時もそうだったのだが、とにかく、主演のエミリア・クラークの屈託のない笑顔に、ハートを鷲掴みされてしまった。
彼女、正直、全く好みのタイプではないのだが、謎の魅力に翻弄されまくりである。

あらすじは、「一年前の交通事故以来、何事にも自信が持てず、他者や家族とも距離を置いて、寂しく行き当たりばったりの生活をしているクリスマスショップ店員の主人公:ケイトが、トムという不思議な青年と出会い、彼の前向きな助言のお陰で、少しずつ周囲に心を開いてポジティブになっていく。
次第にトムに惹かれていくケイト。
だが、ある日を境に彼が突然彼女の前から姿を消してしまう。
トムは一体何者で、どこに行ってしまったのか…」というストーリー。

かく言う私も、物心ついた頃から、クリスマスには切なく辛い思い出しかなく、そのせいもあってか、何事にも上手くいかないケイトにことのほか感情移入してしまった。
思い起こせば、我がクリスマスの黒歴史の始まりは…そう、確か小学校に入って最初の年の瀬のことだ…。

✤✤✤

私がクリスマスプレゼントを貰った最古の記憶は、小学校1年生の時である。
その頃、子供向けおもちゃ業界では、いわゆる"超合⾦ブーム”の最盛期だった。
周りの友達は皆、何体ものヒーローやロボットの超合金を所有し、友人宅に⾏っては互いにそのコレクションを⾃慢し合っていた。
極貧だった我が家には、超合⾦どころか塩ビのソフト⼈形すら⼀体もない。
故に、私は、友達の持つ超合金のグレートマジンガーや仮面ライダーストロンガー、ゴレンジャー等を眺めては、毎度⻭噛みする思いだった。
そこである⽇、私は勇気を振り絞って親⽗にこう頼み込んだのだ。
「クリスマスと誕⽣⽇(※12月28日)と正⽉のお年⽟、全部一緒でいいから、ゴレンジャーの超合⾦をひとつだけちょうだい!」
親⽗は最初ダメの一点張りだったが、私があまりにしつこいため、終いには折れた。
私は何度も何度も「約束だよ!」と念押ししつつ、それから年の瀬まで期待に胸を踊らせた。
そして、待ちに待ったクリスマスイブ。
夜、酔っぱらった親⽗が笑いながら帰ってきた。
駆け寄る私。
親父は自慢げにこう言った。
「パチンコでな、取ってきたぞ、ゴレンジャーの超合⾦!」
パチンコというのが少々引っ掛かったが、この際入手方法なんぞどうでも良い。
⽣まれて初めて、我が家に超合⾦がやってきたのだ。
しかも、憧れのゴレンジャーである。
私は、親⽗から渡された紙袋の重みと、自身の高まる鼓動、その両方を感じながら包みを開けた。
中からは、格好いい箱に梱包された超合⾦が姿を現し・・・
・・・
・・・現れたのは・・・
・・・
・・・”キレンジャー”だった。

"キレンジャー"・・・それは、カレー大好き九州男児、"大ちゃん"こと、大岩大太が変身する黄色の戦士で、変身前後とも自らを「おいどん」と呼ぶゴレンジャーきってのキワモノおデブキャラである。
やれパチンコ何時間打って腱鞘炎だ等と恩着せがましく話す親父に対し、私はぼそりと「アカレンジャーかアオレンジャーはなかったの?」と呟いた。
親⽗の回答はこうだ。
「ああ、これしか残ってないって店員が⾔ってたぞ。なあに、何色だってゴレンジャーには違いねぇだろ!」
・・・
翌⽇、友達の家でデビューした我が家唯⼀の超合⾦"キレンジャー"は、たちまちA君の仮⾯ライダーストロンガーの敵役に抜擢され、コテンパンにボコられた。
終いにはB君の持つ超合金ゴレンジャー5体に囲まれ、偽物扱いされた挙句、必殺技で蹂躙される始末。
私は帰る頃には皆から劇中のキレンジャー同様”大ちゃん”というあだ名で呼ばれていた。
⼦供というのは、まこと残酷な⽣き物である。
帰宅した後、私は悔しさのあまり、"キレンジャー"の全身を油性ハイマッキーで真っ赤に塗りつぶした。
結果、凄まじく汚らしい色むら全開の"偽アカレンジャー"が爆誕。
それからの数ヶ月、我が家唯一のヒーロー超合金、怪しげなまだら模様の"偽アカレンジャー"こと"元キレンジャー"は、友人がアッセンブルするヒーロー達と対峙する不動のヴィランとして、たった1体で獅子奮迅の激闘を繰り広げるのだった。
そして、彼は毎回一人で過酷なを必殺技を受け続けたため、半年も経たずに、油性インクとメッキが剥がれ落ち、もはや何レンジャーか判別もつかない灰色の塊と化していた。
ヒーローとしてのオーラを失った、疲れ果てた労働者のなれの果てのようなその惨めな姿に、子供ながら何とも言えない哀愁を感じたのを覚えている。

✤✤✤

そんな私のクリスマスの切ない思い出を、わずか103分でポジティブに塗り替えてくれるのが本作『ラスト・クリスマス』なのである。
作中、悩むケイトにトムは何度も言った…
「上を向いて!」
実に素敵な魔法の言葉じゃないか。
おまけに、ラスト17分は感涙必至。
毎日をポジティブに生きるため、背中を押して欲しい方は、是非御鑑賞頂きたい。
『ラスト・クリスマス』は、現在U-NEXTで配信中。
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