・プアホワイトたちの住む田舎
・とぼけた雰囲気の保安官
・行き当たりばったりで墓穴を掘り続ける主人公
・感情のやり場に困るブラックユーモア
などの要素にコーエン兄弟の影響が色濃く見られる快作であり怪作だった。
主人公の友人の死因。そして、死因を隠し通そうとする主人公の不審な行動。
それらミステリーの真相が、誰も予測しない形で明らかになり、思わず笑い(ひいては苦笑い)が漏れてしまう。
そして
「思わず笑ってしまった自分にハッと気づき、気まずく居心地が悪くなる」
この体験ができた事が今作を観て良かったと思える最も大きなポイントとなった。
例え誰がどんな奇抜な嗜好を持っていようとも、本人にとっては大真面目だし、大問題だ。
他の人間に実害さえ及ばなければ、周囲はその嗜好を笑ったり、嘲ったり、憤ったりする権利など持たないはずだ。
それでも「平均的でない」という一点だけで、ついつい人間を偏見にまみれた目で見てしまうのが人の哀しい性。
自分も実際、そんな "ついつい" な笑いをしてしまった。
気まずい。
「自分はリベラルな価値観を持っており、多様性への理解も比較的ある方だ」
言語化はしてなかったにせよ、漠然とそう思っていたのだろう。
だからなおさら気まずい。
今作で扱われる「奇抜な嗜好」はたまたま●●だが、他の事例に置き換えて考えることも当然可能だ。
そして往々にして、偏見の向き先は他者だけでなく、自分自身にも及ぶ。
特に主人公が同性愛者を見下す発言をするシーンに、複雑な心の機微が表現されていて非常に良かった。
というのは、以下のような心理が人間にはしばしば見られるのだ。
平均的でない嗜好を持つ人物が、その事実を受け入れられず困惑し、自分は "普通の" 人間だと信じ込もうとするあまり、同じ嗜好を持つ人々あるいは嗜好の対象となる人々を迫害してしまう。
そんな心の動きが。
映画では
『アメリカン・ビューティ』
『J・エドガー』
『それでも夜は明ける』
などで人間のそういった心理が描かれていた。
『暗殺の森』もその種類の作品と言えるかも知れない。
今作の主人公ジークもまた、●●に耽溺する自分に困惑し、それが「平均的でない者への蔑視」という形で発露していたんじゃないだろうか。
笑いたいのに笑うと気まずくなる、たいへん面倒(褒め言葉)な異色のブラックコメディの感想でした。おすすめです。